玉川陽介『Excelでできる不動産投資「資産管理」のすべて』読了。
2017年に発売された『Excelでできる不動産投資「収益計算」のすべて』の続編というか姉妹編という位置づけです。
前著が収益物件を買う際のシミュレーションに重きを置いていたのに対し、本書はすでに複数棟保有している前提で、日々のオペレーションをどのようにこなしていくか、そしてどのように資産を拡大していくか、という点に焦点を当てた作りになっています。
融資の仕組みで一章使うのはともかく、税だけで一章、それも法人税は前著で触れているし、ということで消費税を中心になっているのが一味違います。
言われてみれば、気づいたら消費税率は10%になってしまいましたし、多くの賃貸事業者は免税業者でしょうから、この消費税1割をめぐるあれこれは本来は徹底的に理解しておいたほうが良い話ではあります。
著者いわく「この10年の集大成」とのことですが、実際に著者が資産を急拡大させたのがこの10年ということですね。
自分らのようにゼロ年代の半ばから収益不動産を見ていた人間にとっては、この10年はただただ値が上がり続け、売り時ではあっても買い時ではないなぁ、なんて思いながらチャンスを逃し続けてきた10年です。
ところが同時期にこれだけの規模にまで膨らませた投資家もいるわけで、どこにその違いがあったのかというのは知っておきたいところでした。
本書の中でその哲学は示されており、別に著者はなにか裏技的なことを使って、そして俗に言う「お宝物件」を購入することで資産を拡大してきたわけではないということですね。
「たとえば、平成初期築、RC造、表面利回り6.5%という現在の市場で多く見かける条件の物件を自己資金なしで購入すれば、税引き後のキャッシュフロー(CF)は生まれない計算となります。」
と明確に述べており、普通に投資物件を扱うサイトで見かけるレベルの物件を、「キャッシュフローは生まれない」と十分に理解した上で、極力フルローンで購入してきたのでしょう。
この投資スタンスの肝は、キャッシュフローは生まれなくても返済が進むことで純資産は膨らむし、どこかのタイミングで売却すればそこで売却益が出る。だから、それまではなんとかする、というもの。
で、そのなんとかするやり方はというと、短期の運転資金融資で手元資金を厚くして凌ぐ、つまり金融キャッシュフローで生活する、ということになります。
無論、短期のお金なのでその間のキャッシュフローは褒められたものではなくなりますが、それについては物件ごとのキャッシュフローとは別に扱い、それらを決算書の中で「見える化」しておくことで銀行を含めた対外的にもしっかり説明しておく、と。
含み益、というか将来の売却益を見込んで短期融資を受けるとか、それはいささか危ないのでは、などと思ったりしてしまうのは貧乏人で、著者自身は学生時代に立ち上げた会社を売却して3億円を手にしたところからのスタートなので、日々の生活費とかそういう心配をする必要のないレベルなのでした。
まあ、土地の含み益を暗黙にでも前提にした短期融資で生活費を賄うというのは、地主ライフの王道みたいなところがありますよね。
友人に地主の息子がおりますが、銀行が貸してくれちゃうので親の無駄遣いが止まらない、と嘆いておりました。
まあ、その無駄遣いというのは競走馬なんですが…。
競走馬というのは仕込んでから結果が出るまでのサイクルが速いので、この血統でダメだったから次はこの血統で、とのめり込みがちなんだとか。
話がズレました。
不動産賃貸業の話でした。
でも、そんな地主やイグジット成功者とは始まりが違うのだから、本書の進め方は我々には参考にならないか、というとそんなことはありません。
収益物件の購入から売却までのサイクルを何棟か経ると、手元にそれなりのキャッシュは残るでしょうから、規模感はともかくそういう方向性で進めることは可能なのです。
時間がかかるというだけで。
なので、なんの経験も後ろ盾もない人間が、そんな先を見ながらそれを続けられるのか、という話になってきます。
デイリーではキャッシュフローを産まないのに規模を拡大すると負債も膨れ上がっていくという事業と、どこまで向き合っていけるのか、と。
目に見える成果が出るまで、下手したら10年単位の時がかかるかもしれませんが、そこまで耐えられますか、と。
論理的にはそれは可能なのだから、それをエクセルで徹底的に設計して管理してみよう、というのが本書の主旨ですが、そこまで踏み込めるのはごく一握りの人なのでしょう。
「不動産で億万長者!」を目指す向きは、1年2年あるいはもっと短期での当座のキャッシュフローを求めるものです。
それを可能にしてくれそうな物件について、「いや、そのキャッシュフローは将来の売却損で相殺されるだけなんじゃ…」みたいな声はそういう人には届きませんし、本書はその対極にあります。
結局のところ時間を味方につけるというのが肝なのですね。
そして同じ時間をかけるなら量は多いほうが面白いですよ、と。
で、そのためには管理も工夫しないととても一人ではまわらないですよ、と。
そのためのエクセルでありレッドマインですよ、と。
その意味でこの投資法にとっては、市況というのはたしかに関係はあるのですが、本質ではありませんね。
買いに傾く時期、売りに傾く時期、という揺れはあるでしょうけれども、それよりも月々の返済をこなすことで他人様の家賃で純資産が増えていくというのがこの事業モデルの根幹です。
だからこそ、できるだけ自分のキャッシュを使わないでローンを引っ張りたいし、短期融資を使ってでも手元資金は厚くしたい。
あとは、日々のオペレーションではとにかくキャッシュフローの動きをエクセルを駆使してとにかく合理的に管理して、数値の把握に努めましょう、と。
前著同様、常に小脇に抱えて置きたい一冊。
というか子どもにはいつか必ず読ませたい。