安井浩一郎『独占告白 渡辺恒雄』

安井浩一郎『独占告白 渡辺恒雄』 評論

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安井浩一郎独占告白 渡辺恒雄』読了。
著者はNHKのプロデューサーで、NHKスペシャルBS1スペシャルとして収録したナベツネさんへのインタビューを基にした書です。
本書の出版は2023年1月ですが、基となった放送は2020年の3月と8月ということで、ロシアによるウクライナ侵攻も起きていない時期での収録ですね。
今だったら少し質問や、それに対する回答の内容も変わってくるのかな、という気もしないではありません。

いや、変わっていなくてもそれはそれで仕方ないかな、という感じはありますが。

というのは、著者自身が最後にまとめていますが、ナベツネさんという人は先の大戦という「戦争との距離感」で動いた戦後政治を最も近くで見てきた人なのですね。
彼が深く関わった政治家は、いずれも戦時中に迫害を受けた、あるいは軍隊で嫌な思いをした者ばかりです。
各政治家ともその原体験からくる親近感で繋がっていて、彼自身は記者の本分はともかく如何に日本がまたあのような戦争を起こさないようにするか、をベースに行動してきているのです。

なので、今起こりつつある「戦争」について訊ねても、有効な回答は無さそうな感があるのですね。
そもそも、副題は「戦後政治はこうして作られた」というものなので、もとより射程外ではあるのですが…。

平成の30年間については、戦争が一度も無かったから素晴らしい、という総括で、多分これが戦争を上層部ではなく一兵卒に近い下の方で経験した世代の本音でしょう。

とはいえ、彼自身の戦争体験というのは戦地に赴いてのものではないのですね。
二等兵として徴兵され、三宿にある陸軍の兵舎で終戦を迎えています。
ただ、そこで殴られ蹴られした体験から軍というものへの嫌悪感はいやというほど味わっています。
そしてそれが自身の基底となっています。

本書では、戦後政治の重要な局面ごとに、記者でありながらそのキーマンとなってしまっているナベツネさんの人となりについて十分な取材で深掘りしています。
御本人へのインタビューだけでなく、西山事件の西山元記者だったり、政治学者の御厨先生だったり、作家の保阪正康さんだったりが登場して、裏取りや論評をしています。

歴史劇画 大宰相』で読んだ内容とだいぶ違うなぁ、なんていうエピソードも数多くありますが、裏ではナベツネさんはこうやって動いていたのか、と驚くものも。

ただ、総じてチャイナに対する甘さが伺えます。
そしてそれはナベツネさんだけではありません。
田中角栄を始めとして戦後政治家のほとんどがそうですね。
保守であってもそれに反発する動きというのも限定的だし、イデオロギーは別にしても、戦略的にどう動くべきか、という話もない。
対中交渉のすべてにおいて、かつて迷惑をかけたのだから、というエクスキューズが入ってから事が始まってしまうのは「戦後政治」の限界なのでしょう。

あと、最初に懐に飛び込んだ政治家が大野伴睦だというのもらしさがありますね。
御厨先生の言葉が印象的です。

「渡辺さんから見て、大野は総理総裁になるような人ではなかったかもしれない。せいぜい副総裁か衆議院議長止まりと思っていたかもしれないけれど、逆に言えばそこまでは持って行けるような人物を、自分の手中に握っているというのは、渡辺さんとしてはすごく楽しかったんだろうと思います。」

生々しいというか野心があふれるというか。

それから残念なのは、本書は中曽根さんとの関わりあたりで終わっているので、いうなれば読売の社主になって以降、我々世代がよく知っている「老害」化してからのナベツネさんの話が一切無いこと。
再編問題が浮上したころのプロ野球の話とか聞きたかったですけれども。
著者自身も「平成編」は続編で書きたい、とのこと。
しかし、それまでナベツネさんの寿命が保つのでしょうか…。

渡辺恒雄本

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