湊隆幸『人生のリアルオプション』読了。
タイトルからすると、オプションの考え方を人生での意思決定に使えるように解説する、というのが本書のコンセプトだったように思えます。
ところが、前半は格言や昔話を少し論理的に捉えてみる、といった段落が続きます。
小話と解説がセットになっていますが、それぞれそんな深掘りできるものでもなかったりするので、数ページごとのコラムが続いているような印象です。
退屈な人は退屈だろうと思います。
中盤になってようやくオプションの考え方を実生活に応用する思考の解説に入ります。
とはいえ事例としては、結婚だったり服薬だったりと、バラエティには富むもののいかんせん数が少ない…。
一応、コール・プットの基本的なところも押さえているので混乱はしないと思うのですが、「人生のリアルオプション」というタイトルにしては少ないかなぁ、と。
そして終盤になると、もはや「人生の」は取れてしまい、事業計画の立て方からモダン・ポートフォリオ理論の解説に至ります。
著者ご自身も、このあたりの解説になるとタイトルから離れてしまうのが心苦しいのか、難しくなると「興味のない方は、ここでとどめておいてかまわない」と予防線を張ってから進む始末。
実際のリアルオプションの解説は、概念的なところは触れるものの、計算については複雑なので他書をあたってほしい、と言い自著(『事業の意思決定』)を推薦しています…。
いや、まあいいんですけどね。
もっともよくわからないのは、最後の「人生のリアルオプション」と題された段落の内容。
「問わず語らず名もなき焼酎」
と書かれてあるだけなんですよ…。
解説も全くない。
ちょっと深すぎました。
自分は、オプションについては、新人のときに大和證券の主催するセミナーで勉強しました。
講師の人自身があまりオプションをわかってない感じで、途中で解説しながらバタバタしだしたりして、それが面白かった記憶があります。
「えええーと、はい、こっちがプット、・・・・、あ、はい。ん?あ、はい。です、です。」
みたいな感じで。
顔を見ると冷や汗が額を伝う感じで、質問はしないであげました。
外部での新人研修ということで直行直帰でしたが、一応セミナー後に上司に電話することになっていました。
で、「どうだった?」と言われたので、「玉石混交ですかね。」なんて言いながらその話をしたら大ウケしてました。
偉そうな新人だったと思います。
あの頃はまだ、資産運用業界も新卒で人を採用するのに慣れてなくて、入社後の研修にどこを使うかというのも手探りだったんでしょうね。
翌年の新人たちは違うところのセミナーへは参加していました。
話がズレました。
「人生のリアルオプション」の話でした。
一点、誤植かなと思われる点を指摘しておきます。
P.279では、内部収益率(Internal Rate of Return)をIPRと略しています。
複数回その記述があるので、スペルミスでそうなったのでは無さそうです。
ただ、もとの英語には「P」は使われていないのでなんとも。
一部界隈ではそう呼ぶ風習があるのでしょうか。
ちなみに不動産賃貸業の世界だと、フルローン・オーバーローンが主流だった時代には、そんな概念は無かったですよね。
手出しが無かったら分母はゼロなので強いて言うならIRRは無限大。
それどころか消費税還付で買えば買うほど資金が増えるという時代もありました。
さすがに今は穴を塞がれてしまいましたが。
でも、そもそも家賃が非課税なのがおかしいですよね。
仕入れのほとんどは課税なのに。
前半の人生訓は、リアルオプションとは関係なくコラムとして面白いし、後半の証券分析はこなれた解説書を読んでいるようで面白い。
でも、『人生のリアルオプション』というタイトルは違いますよね。
そんなタイトル詐欺な一冊。