Amazonプライム・ビデオで映画『銀の匙Silver Spoon』視聴。
いきなり15歳の春の設定で広瀬アリスが出てきて、ちょっと厳しいんじゃないか、と苦笑してしまいましたが、制服姿は少なかったので、なんとかなりました。
それよりも、馬や牛の世話を難なくこなす酪農家の一人娘という演技が自然で非常に好感が持てました。
原作を読んでいないので何とも言えませんが、主人公が札幌の中高一貫校から農業高校に進学した経緯とか動機とかがイマイチよくわからないというのはありました。
成績に躓いた、というところが少し触れられただけなので。
でも、そのシーンのためだけに前野朋哉くんを使っていたのは、才能の無駄遣いな気が…。
当然に、農業高校に入って同級生から入学理由を訊かれても答えられないわけですが、でも15歳の子が自分でした決断なんて、案外そんなものかもしれません。
描かれていない、というより、描くほどのエピソードもない、といったところでしょうか。
自分だって高専に進んだのは、たまたまテレビで見たロボコンでその存在を知ったからです。
でも、だからといって別に機械工学科に進んだわけでもないですし、まあ、ストーリーとするには矛盾はあります。
進学した後に、ちょっとこれは想定と違ったな、というところからの路線修正が結構大変で、むしろそちらのほうがストーリーというか黒歴史でしたけど…。
そう考えると、中学受験というのは殆どが親の意志であって、その結果進んだ進路で、本人がこれは違う、と感じたときの人生の修正の仕方というのは、結構難度が高いですね。
本作では、偏差値至上主義の父親というわかりやすい絵を使い、そこから外れた主人公という姿にしていましたが。
ただ、主人公が自分の選択について「逃げ」という言葉を使うのは、父がその進路変更を「逃げ」と称したからに過ぎませんよね。
そもそも親に設定された進路からずれる形での進路変更を、親がそういう言葉を使うことで、そういうものとして彼自身が受け入れてしまったわけです。
子どもに対して使う言葉は気をつけないといけないなと、そこは親の立場で見てしまいました。
また、農業高校ならではの、畜産農家の跡継ぎを期待された面々と、特に将来が固まっていない札幌のサラリーマン家庭の息子としての主人公の対比があります。
まだ将来が何も決まっていないことに引け目を感じる主人公に対して、上島竜兵演ずる校長が、「素晴らしい」と励ます場面があるのですが、もしかしたらこのあたりは原作ではもう少し深掘りしていたのかな、という気はします。
竜ちゃんがわかって演技していたのかはわかりませんが。
そんな竜ちゃんも、もう見られないのはつくづく残念ですね。
本作の中では、特に主人公の中で将来が固まったとかいうことはありません。
文化祭でばんえい競馬を企画することを思いつき、それを実現させ、その騎手として出場した広瀬アリスがレースに勝つあたりがクライマックス。
だからお話として弱いというレビューも見られるのですが、何かをやり遂げる高校生活ドラマとしては十分だと思うのです。
実家の牧場が倒産したことで、高校を中退せざるを得なくなる同級生も描かれているので、その対比としてはエピソードが弱いように見えるだけで、そもそも普通の高校生活を扱った話でそこまでヘビーなものは求めていません。
その割には、屠殺を扱ったり牧場の倒産を扱ったりと、酪農と真面目に向き合った作品だ、という感想になります。
主人公がこの先、改めて大学やその先を目指すことになるのか、それとも高校を出たら酪農家に修行に出るのかはわかりませんが、まだしばらくはモラトリアムを楽しんでほしいな、と。
ちなみに主人公の名字は八軒ですが、札幌の実家の住所は「山の沢」とあって、まあ、これは「山の手」と「宮の沢」なのでしょう。
あ、そこは八軒じゃないんだ、と微笑んでしまいました。
U-NEXT、Hulu、dTVでも観られます。