Amazonプライム・ビデオで『何者』を視聴。
原作を読んでから時間が経っているせいか、細かいところは忘れてしまっておりましたが、終盤のどんでん返しのところはさすがに覚えていたので、逆にオチで楽しめなかった的なところはありました。
そういう意味ではちょっと残念でしたが、不満点はそれくらい。
というか、それはあくまでもこちら側の問題ですからね。
素晴らしい映画です。
なおかつ原作読破時と同様、心が痛くなりました。
何より中田ヤスタカの曲が良いですね。
米津玄師の主題歌も作曲はヤスタカさんだったのですね。
編曲だけかと思いましたが。
というか、米津さんは別にすべて自分で作った曲でなくても、こだわりはない人なのだな、と。
天才は別にそこにこだわらない、ということでしょうか。
すでに「何者」であるかわかっているので、そこで文句は言いません、と。
そんなミュージシャンや演劇人といった表現者の道を選ばなくても、「何者」であるかを問われてしまうのが就職活動ですけれども、時代的にそれが過剰になっていたころで、それがこの作品(小説のほう)がウケた事情でもあるのかな、と思います。
小説は2012年に書き下ろしでの出版とのことですが、映画でも岡田将生が原発事故のことに触れるあたり、作品の中の時代としてもアベノミクス前、景気がボトムの頃でしょう。
求人環境も最悪の時期で、買い手優位の極端なところまで行くと、極論まで「何者」であるか考え抜かないと採用してもらえない、みたいな錯覚は当然出てきますよね。
それゆえに内定が出ないというだけで過剰に自分を追い込んでしまう、ということも。
本作の主人公は、すべてを客観視できてしまった結果、自分を追い込むところから一旦は逃げてここまで来てしまった口ではありますが、昔はそんな人であっても、「回り道したんだな~、ガハハ。これからは頑張って働けよ。」くらいな勢いで採用してくれる企業はいくらでもあったのでしょうけれども、時代がそれを許さなかった、と。
エンディングでは、主人公が自分を見つめ直した結果を面接の場で披露するのですが、それが奏功したのかどうかは作品の中では明かされず。
でも、現実だってそうでしょう。
見つめ直して前向きに一歩踏み出したら、それですべてうまくいくと決まっているわけじゃない。
それでも佐藤健の目というか表情に、覚悟は見えてきて、いい役者だな、と感じた次第。
架空のお話ですけれども、どこかの出版社に入り、良い編集者になってほしい、と思うのでした。
あとは、登場回数は少ないですが、山田孝之演じる院の先輩が良い味出してました。
実際は理系の院生だって、研究室に残るにせよどこかで就職するにせよ、ずっと安泰というわけでは無いのでしょうけれども、そういうところとは無縁の良き理解者・兄貴分としてのキャラを存分に発揮していました。
主人公の佐藤健が、演劇を続ける自分の旧友と岡田将生とを同一視して見下したがっていたところを、二人は似ていない。お前は旧友の側だ、と看破したあたり。
あそこが作品の中での主人公の人生のターニングポイントでしたかね。
最後に少しだけ自分のことを。
自分が就職活動をした当時も景気は最悪の時期で、それにあのころは圧迫面接も普通にあったし、良い思い出なんてほとんどありません。
けれども、就職後に社内でバブル世代の人の話を聞いたら、どこ受けても内定は出るし、逃げられないようにハワイのホテルで缶詰にされたとか、もう世界観が違うのですね。
生まれた時代によってこんなにも扱いが違うことに驚き、そして、そんな人達の言うことなんてまったく参考にならないよな、と改めて世代論に心が傾いたのでした。