田嶋幸三『批判覚悟のリーダーシップ』読了。
現状(2022年12月14日時点)、アマゾンでの評価は星1つが100%。
まあ全5件ですけれども。
そんなことがあり得るのかと目を疑いますが、それくらい日本のサッカー界からはパブリック・エネミーとなったJFA田嶋会長の著書です。
本書の出版日が2022年11月で、なんでこんなタイミングにぶっこんでくるかなぁ、というのが第一感としてありました。
ところが、会長からすると敢えてのこの時期の出版だったのですね。
ワールドカップで日本がグループステージで敗退していたら弁解のように取られるし、予想外の好成績なら調子に乗っていると取られるから、と。
でもですよ。
そもそもJFAの会長が自分語りする必要ってないですよね。
自伝を書きたくて本を出すというなら、今際の際とまでは言わないまでも退任してからで良いじゃないですか。
そうではなく、これはサッカーの戦術論を記したものなのです、とか、日本サッカーをこの方向で進めたいのです、とかいう書であるならば、まだわかります。
会う人にいちいち説明するのは大変なので、予め知っておいてもらうために書いたんだな、ということがわかるので。
でも、本書はそういう感じでもないんですよね。
冒頭から、ハリルホジッチをクビにした経緯と理由についての話なのです。
御本人としては、彼をクビにした決断力がリーダーシップなのだ、ということなのですが、なんとなく釈然としません。
何しろ、監督と選手との間にコミュニケーションがうまくいっていなかったから、というのが解任の理由なのです。
普通なら、「では、あなたはそのコミュニケーションがうまくいくように会長として努力したことはあったのですか?」と問われるだろうし、一応それに対する弁明はあっても良さそうです。
しかし、本書では技術委員長の西野さん(当時)から度々代表チームの惨状について報告を受ける場面は記述されているものの、端からそれは自分の仕事ではないとしている書きぶりです。
もとより、ハリルホジッチを招聘したのは自分ではないし、そこに責任はない、としていたのかもしれません。
当時招聘にあたった原博実・霜田正浩両氏はすでにJFAにはいないし、というか原さんを会長選で破っての自身の会長職就任なので、ますますオレは関係ないと思っていたのかもしれません。
実際、自身の在任中に起用した森保監督については、最後まで擁護し続けたわけですし。
本書の説明によると、解任の実際の契機は、すでにメディア報道で明らかになっている通り、ホーム開催のE1で韓国に大敗したことと、選手が自分のところに直談判に来たからでした。
ハリルホジッチが解任された後、コメントを求められたトルシエは「日本では韓国に負けることは汚点になる」から去就問題につながったのは当然と言っていました。
でも、おそらくハリルホジッチ本人はそういうことは知らずにいたのでしょう。
本人の意識としては、E1なんて国内組だけで戦う大会だし勝敗は二の次、ワールドカップ本戦に向けていくらか新戦力を発掘できれば儲けもの、くらいの。
そんな限定的なメンツで戦って、予想通り大敗し、「メンツを見ても勝てそうなところはなかった」と本心(あるいは負け惜しみ)を呟いたら、その姿勢を問われクビ。
聞いてないよ、と言いたくもなるのではないでしょうか。
そういう最低限の基本的な情報は、監督の耳に入れていて然るべきだったでしょうが、会長は「代表監督とは孤独な立場なのです。」と突き放していて、まあ、少しズレている感は否めません。
選手とハリルホジッチの間で、また協会とハリルホジッチの間で、橋渡しになっていたであろう霜田さんがJFAからいなくなったのが、ハリル解任の一因とよく言われます。
本書からもそれは伺い知れるところですが、霜田さんが去った背景などについては、もちろん触れられていません。
それでも、会長は、JFAの会長選は多数決で決めるべきではない、と述べていて、自身が会長選で原さんを破ったことで、原派とでも呼ぶべきグループが抜けてしまったことを少し気にかけてはいるようです。
で、対抗馬もなくこれで3選目。
会長選に破れたら組織を去らなくてはならないような環境が問題なのであって、会長選を多数決で決めるのは良くない、というのは少し違うと思うんだよなぁ、と思うわけです。
しこりが残るような人事をし、人が去ってしまうような事態を招き、あげく代表運営にまで支障をきたしたら、見えるところを切ってオシマイ。
でも、組織を自分色に染め上げるために、自分の意に沿わない人間をクビにすることがリーダーシップなのです、と本書の冒頭から白状してしまっているので仕方ありません。
日本サッカーはこれで良いのか、と頭を抱えてしまう一冊。