Amazonプライム・ビデオで映画『漁港の肉子ちゃん』視聴。
明石家さんまがプロデュースで大竹しのぶが主役の声という、ある意味プロデューサーの本気を感じる作品ですね。
作品を読んで、映画化を考えたときに元の配偶者を選ぶという。
公開当時、初日舞台あいさつでの様子をニュースで観た記憶があります。
実は同じマンションに住んでいるんです、とか、もう一度結婚したほうがよろしいのでしょうか、とかそんなトークで会場を笑わせていましたが、今はそういう関係性なのですね。
以前、永瀬正敏と小泉今日子が夫婦役をした映画もありましたが、その宣伝でテレビに出たときには、当該の二人は一切視線を合わすことなく、当然トークも弾まず、一緒に出演した古田新太が苦労して場を保たせていたのを気の毒に思った記憶があります。
それに比べ、周りに気を使わせることもなくすべて笑いに昇華できるのは素晴らしいな、と。
ただ、大竹さんの演技はうまいのですが、うまければうまいほど肉子ちゃんが大竹さんそのものに見えてきて、結構不思議な感覚でした。
「みう」の吉岡里帆にはそんな感じは受けなかったんですけどね。
若い頃の大竹さんがいろんな男に走ったのは、別に騙されてたからじゃないと思うんだけどな、なんて余計なことを考えながら鑑賞してしまいました。
また、血のつながっていない子を育てることの困難さ、そしてその素晴らしさも、本作の一つのテーマでしょうが、それはむしろ、さんまさん自身の人生の投影でしょうか。
原作者の西加奈子さんに直談判して本作の映像化の許可を得たそうで、そのあたりの内容への共感も多分にあったのではないでしょうか。
劇中歌に吉田拓郎をぶっこんでくるなど、プロデューサー権限でやりたい放題な感じはありますが、声優起用については、本職の声優と普通のタレントとのバランスが絶妙だったり、いい頃合いにまとめてくるあたりは、よしもとの総合力なんですかね。
プロデューサーのプロデューサーというか、表には出ない調整役がよしもとから出向してきている、とかいう感じの。
本作では、事件らしい事件は起きません。
強いて言えば、小5の少女「キクりん」が転校した先のクラスの中で派閥争いに巻き込まれるあたりですが、別にそれがストーリーの本質かというとそんなことはありません。
漁港の美しい、そして雄大な風景の中では、そんな争いなど何も意味を持たないかのようで、というか意識してそういう演出がされているのでしょうけれども、さっと流されます。
で、彼女の側には、事件らしい事件は起きないまでも、彼女の中にはいつかはそれが壊れるであろう勝手な予感があります。
それは、いつも親の恋愛に付き合わされ、それが終わるたびに引っ越し(と本人にとっては転校)を余儀なくされてきたからですね。
その繰り返しだったこれまでへの密かな不満と、思春期ゆえにそれを理解してあげたいとする心と、その不協和音は物語の終盤に彼女の病気(盲腸)となって結実。
でも、それによって「母親」との繋がりは、より深くなるのですね。
彼女が大人になったことで、肉子ちゃんが一瞬真顔になってから、二人で喜んで終わるエンディングも素晴らしい。
U-NEXTでも観られます。