中島弘象『フィリピンパブ嬢の経済学』読了。
最初、なんで「経済学」なんだろう。タイトルを付けるとしたら「社会学」だろう、などと思いながら手に取ったのですが、なんてことはない『フィリピンパブ嬢の社会学』なる本はすでにあり、それが前著だったのですね。
その前著は、限界院生の筆者がフィリピンパブのキャストのヒモになり結婚するまでの話で、それがヒットして映画化もされるとのこと。
ああ、そういうことか。それで二冊目の執筆に入ったということでしたか。
ちなみに著者は国際関係学専攻なので、「社会学」でも「経済学」でもなかったのでした…。
とはいえ、学術書でもなんでもない書名に使われるなんて「社会学」も「経済学」も扱いが軽くなったものだ、なんて感想を持ちたくもなりますが、書名については出版社・編集の意向でしょうから、著者に文句を言っても仕方ありません。
アマゾンレビューを見ると、前著ほどの中身は無い、みたいなものが多いのですが、そもそもが映画の宣伝も兼ねた一冊ということでしょうし、企画モノと割り切ったほうが良いです。
基本的には嬢との結婚後のストーリーです。
子育てに関しての日記みたいなものが続きますが、それらすべてにおいて外国人との結婚というのは大変なのだな、ということを感じさせられます。
ましてや日本語が不自由であればなおさらのこと。
著者はそこで行政への不満なども述べていますが、一方のフィリピン出身の妻は仕方ない、という物言いをしていて、それは日本語でそういう言葉遣いになっているものの、決して日本語のそれが持つ後ろ向きな意味ではなく、そういうものだ、そういうものであるのはそれとして受け入れていこう、みたいな感じ。
国民性と言ってしまうのは雑な一般化ですが、二人の意識の違いが面白いですね。
自国での状況との比較感なのでしょうけれども、少なくとも賄賂を渡さないと何も始まらないとか、透明性が低いとかいうことではないので、そういうシステムならそれに対応していこう、というたくましさというか。
どんなに厳しいといっても、ルールベースに物事が進み、属人的でないのなら対処もしやすい、という割り切り。
もちろん日本人の夫に愛されて二人の子供を授かった自身の人生は幸せだ、という意識もあるのでしょう。
著者は、彼女と出会った当初こそ未来も描きにくいFラン大学院生で、その後妻の姉宅での半分居候的な生活は経たものの、今では地元企業に正社員として真面目に働く身です。
もしかしたらそういう夫というのも、フィリピン本国で見つけるのは稀有な存在なのかもしれませんしね。
とはいえ、そんな本人たちのエピソードだけでは内容が薄いと感じたのか、途中で愛知県内で仕事をしている出稼ぎ外国人のルポが続きます。
読者としてはそっちだけでも良かったのではないか、という気も。
まあ、それだと映画の宣伝にはならなかったでしょうけれども、興味深いのはそういう外国人労働者の生態の報だったりするわけです。
著者の妻も一時期は夜の仕事を辞めた後、豊田市内の製造業の工場で働いたことが記されていますが、たとえフィリピン人女性であっても、愛知県内なら夜の仕事を引退しても昼に工場で働くという選択肢があるのは幸運でした。
同じ日本に偽装結婚を経てパブ嬢として送り込まれるとしても、どこのエリアの店になるかは運次第でしょうから。
今や日本国内の製造業を支えているのが、そういった外国人労働者が多くなった以上、メイド・イン・ジャパンというものへの見方も変わってくるのだろうな、という気はしましたが。
いずれにせよ、タイトルから想像できる内容は多分前著に多く載っているのであろうし、本書を読むのは前著で著者のファンになった人が主になるのだろうなという一冊。
「社会学」「経済学」じゃないじゃん、と目くじらを立てそうな人は手にとってはいけません。