松尾千歳『秀吉を討て』

松尾千歳『秀吉を討て』 評論

松尾千歳秀吉を討て』読了。

副題は「薩摩・明・家康の密約」とあります。
その密約の存在を示す決定的な文書が見つかった!とかではないので、厳密にはタイトル詐欺なのですが、読み終えての感想としては、そういう流れももあったかもね、くらいのことは言えそうです。

著者は、福岡生まれながら鹿児島に魅せられ、鹿児島大学を出て鹿児島の歴史博物館に就職したという経歴をお持ちの方で、いわゆる郷土史家という括りになるのでしょうか。
薩摩推し・島津推しがにじみ出ています。
贔屓の引き倒しになっていないのは、やはり福岡出身ということで、多少外部の目線になっているところもあるのかもしれません。
昔、東北出身の方が東日流外三郡誌を解説した本を読んだことがあるのですが、収拾がつかなくなっているのは承知の上で無理やり擁護しようとしてかえって墓穴を掘っている、みたいなところもありましたので。

副題のきっかけになっているのは、秀吉の朝鮮出兵に際しての明側の資料の中に、薩摩と家康による謀議を伺わせる文言があったというところ。
それが本当かどうかは別として、あったとしても変じゃないよね、ということを読者に信じさせるに十分な、それまでとそれ以降の歴史の整理が本書の流れです。

秀吉の狙いが「朝鮮出兵」というより「唐入り」であったことは、日本側よりも侵略されたかもしれないであろう明側の方が重きを置いて理解していて、それゆえにいろいろな戦略を立てていたということなのでしょう。
どうやってそれを防ぐかという議論の中で、秀吉に対して反発を持っているらしい島津と家康を焚き付けたらどうか、くらいの話は出ていて当然です。
種々の戦略の中では、秀吉を日本国王に任じて朝貢貿易をさせるというまっとうな方策もあったようです。

今の我々からすると、いやーそういうのは秀吉には通用しなかったんじゃないか、とは思ったりしますが、でも、秀吉の朝鮮出兵の真の狙いみたいなものは、やっぱりわかりませんね。
本書の射程とはずれるので、それはまた別の機会に学びたいです。

また、秀吉の出兵の動きなどの情報は、島津に仕えていた中国人たちによって明にもたらされたというあたりも含めて、当時の薩摩のスケールの大きさを感じました。
まあ、山田長政とかの例をあげるまでもなく、鎖国前の日本人の行動範囲の広さというのは、今の我々からしてもなお、想像を超えるところはあるのかもしれません。

本書では、日本と東アジアとの交易については、それ以前の勘合貿易のところから、その成り立ちと室町末期の大内と細川のいざこざや倭寇の動きまで。
また、兵庫津と堺の発展の違い、そして島津と堺の関係の深さ、というあたりまでも解説されています。
そして、そのあたりで膝を打ちました。
関ヶ原の後、義弘が堺の商人に匿われて国まで逃げ延びられたのは、そういうことか、と。

というか、そもそも島津と家康との間に密約があったのなら、関ヶ原で義弘が西軍にいたのはどういうこと?というのはありましたが、そのあたりの解説も丁寧です。
朝鮮出兵にせよ関ヶ原にせよ、島津義弘という人はかわいそうだったなぁ、と。

関ヶ原後の沙汰を見るに、まったく損をしていない、それどころか琉球支配のお墨付きも得られるなどプラス面が大きいのは、この密約があったからだ、とまで言うのは言い過ぎなのでしょう。
でも、本書でわかるのは、この徳川の島津に対する対応には、それなりに理由があったということです。
それは、島津が強かだったからと言うよりは、島津の考え方によるところが大きいようです。
島津は交易によって資本を蓄えてきた都合上、秀吉であろうとだれであろうと統一された国家とそれによる貿易の独占には反発を持っていました。
それにより、秀吉時代には、その軍門に下りつつもある一定の距離を置くことになっていたし、結果的にそれが、島津を「豊臣恩顧の武将」ではない地位に至らしめました。
また、それにより関ヶ原でもさほど重要な位置にはつかなかったことで、西軍にはついたものの反徳川にはなりきらず生き延びられました。

江戸時代に入っても琉球を通しての交易で資本を蓄え、幕府を倒す原動力になったのもそういったカルチャーが残っていたからなのでしょう。
しかし、最後に長州と組んで、中央集権型の政府を作ることになったのは歴史の皮肉でしょうか。

後に、毛利と島津のしかも下級藩士に幕府を倒されたなんて聞いたら大権現様は何を思うのでしょうかね。


松尾千歳本

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