Amazonプライム・ビデオで映画『いざなぎ暮れた。』視聴。
歌舞伎町でホストクラブの経営をしているらしきホスト上がりの主人公とその婚約者のキャバ嬢の話なのに、唐突に島根県の美保関が舞台です。
徐々にその背景は回収されますが、冒頭から主人公が時間単位で借金の返済に追われるという切迫感で始まるので、見ている側もあまりそこには疑問を持たずにストーリーに入れます。
キャバ嬢役の武田梨奈のセリフで、実はもう10時間もドライブしていたということが判明するのですが、なんというか、観客も一緒になって、そんなことより金をなんとかしないと、という意識が先に来てしまうのですね。
金策に走る人間が短絡的な行動になり、身近な人間に対してすら攻撃的になってしまう様が、コミカルに描かれます。
多少合理性を欠く様も、まあ、借金取りに追われているわけだし、で納得してしまいます。
ドタバタと町のあちこちを愛車のダッジで走り回るわけですが、もちろんこれは、美保関の観光名所をくまなく巡る映像となります。
おまけに、二人が訪れた12月3日というのは、この町で大事な神事が行われる日だということで、その宣伝にもなっていますね。
神話のような町の風景と、映像には出てこない「歌舞伎町のホストクラブ」との対比とが、何度もかかってくる借金取りとの電話のやり取りで浮かび上がります。
ある意味、主人公にとって、その電話が現実との唯一の接点になっているかのようです。
しかし、それも何度となく上手いタイミングでスマホの電池が切れ、通話が途切れます。
その度に、充電などで再接続を試みますが、最後にはそれも断念することで、その現実も切れることに。
とはいえ、その現実が消えたからといって、別にこの町で生きていく、とするわけでもなく、そこでは徹底して部外者のままです。
話を通して、徐々に明らかになる主人公の生い立ちとこの町との関わり。
そして主人公がその町で受け入れられない理由。
それらを受け止めた上で、違う現実を始めてみよう、とするところからのエンディングです。
ストーリーの流れからすると、その町で店を開くとかではないにせよ、醤油屋の息子として出直すことを決意するのかな、とか思ったのですが、そんなこともありません。
車の仕事でも始めてみようか、と言い出し、そこはちょっと意外感。
途中で壊れた愛車はどうなったのか、とか、主人公たち二人が海に飛び込んだ後の着替えはどうしたのか、とか、色々と細かいツッコミはありますが、そういうのを一切捨象して数時間の滞在で人生が変わる経験をする、というのを楽しむ物語。
武田梨奈がマジで空手技を披露しているので、そこも見どころ。
dTVでも観られます。