ベネデット・コトルリ『世界初のビジネス書』読了。
副題は「15世紀イタリア商人ベネデット・コトルリ15の黄金則」とあり、帯では「元祖グローバルビジネスパーソンの教え」、「これで儲けよ!」とか煽ってきます。
完全にビジネス本のノリですね。
ビジネス街の書店の店頭でポップを付けて売り出されている感じの。
その割には訳者として指名された方は、ご専門が「15世紀フィレンツェのプラトン主義をめぐる~」とあって、少し噛み合っていないような。
いや、並大抵のビジネス本の翻訳家では太刀打ちできない内容であったことは想像に難くないのですが、それであれば監訳として経営学者をつけるとかしてみるとか、そういう手もあったのではないのかな、と。
何しろ複式簿記も完全には確立されていなかった時代の書物なので、取り上げるべき内容を精査するのは大変だったろうとは思うのですが、内容もさることながら「ビジネス書」としての取り上げられ方には少し違和感がありました。
で、その違和感の背景は何なのかな、ということを考えてみたのですが、すぐには気づかなかったのですね。
強いて言うなら、なんとなく記述に伸びやかでないところがある点かな、というあたりまでで。
読み終えてしばらくして判明したのですが、我々がビジネス本というか、経営の本を読むときの暗黙の前提というか、その背景というか、そのあたりを探ってみると、先日の事業家botさんの本でもそうでしたが、資本主義そのものの価値については疑っていないわけです。
根拠なしにざっくり言ってしまうと、英米系・アングロサクソン系のベースの価値観とやらでしょうか。
利益を上げることに何のためらいもない、というと偽悪的ですが。
正しいとか正しくないとかいう疑問を挟む余地もなく議論が進みがちな背景については『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』とかを読み直したほうが良いのかも知れないですが。
(キンドルで積ん読になってます・・・。)
で、一方、本書のコトルリさんですが、都会で勉学に励んでいたところ、父の急死により、国に戻って事業を引き継がないといけなくなった、という経緯はあるにせよ、折りに触れ「聖職者は見下すかも知れないが、商売ってのは最高なんだ」みたいなことを書いています。
「オレ、資本主義の価値観を信奉するものなんだが」といちいち言わないといけなかったのですね。
誰に対してというわけでもなく、実は自分に対してなのかもしれないですが。
こうやって本を書き上げたりしちゃってるあたりも含めて、精神的には結構辛いものがあったんじゃないかな、と。
Amazonレビューでは、そのあたりの逡巡・葛藤のようなものを以て、イタリアのモラルとか精神的な豊かさとかいう表現で評価している向きもありますが、それはそれで少し楽天的にすぎる意見と感じました。
ビジネス本というよりは人生訓として面白かったのは、家族とか子どもの扱いについて書かれた箇所。
妻選びには、誠実さ・持参金・美貌の順番でこの3つが大事、としていて、なおかつ美貌が最後に来るのは歳をとったら衰えるから、とか身もふたもないことを言っています。
また、自分が引退するとき、子どもが女なら財産を分け与えろ、男なら一部だけ渡して残りは自分のために取っておけ、と。
これは生前贈与をしたら、息子が態度を変える事例をよく見たりしたのかな?と。
ビジネス本というよりは、やはり歴史書として読むのが良いかと思われます。