デビッド・アレンの『仕事を成し遂げる技術』(以下、『旧翻訳書』)を読みました。
2001年発売のデビッド・アレンの『GETTING THINGS DONE』を翻訳した本です。
田口元氏が2009年に監訳して出版した『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』(以下、『改訳版』)と元は同じということになります。
Amazonではもはや古本でしか手に入らない状況です。
まあ、古本なら41円から出品されてますが。
実は、新品の残り一冊を買ってしまったのは私です。
もし興味がある人がいらっしゃったらごめんなさいですが。
まあ、そんな奇特な人もいないでしょうか。
基本的な中身については『改訳版』、あるいは『全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』(以下、『全面改訂版』)を読めばよいわけで。
『改訳版』も『全面改訂版』も出ている本について、わざわざその前の版を読みたい、というニーズがあるとすると、田口元氏の手垢のついていないGTDを学びたい、とか、より原著に即した理解をしたい、とかいう話になるわけですが、相当にニッチです。
自分としては、そういうところもありますが、それよりもなぜ『改訳版』が出ることになったのか、という点に興味がありました。
わざわざ敢えて同じ本の翻訳を出しているわけなので。
で、読んでみたわけですが、どうにもこれビジネス本という感じがしないんですよね。
2001年出版の割には古臭いというか、ビジネス本にありがちなキャッチーなところがないというか。
フォントが小さかったり、表だったり小見出しが研究書に載っていそうな退屈なものだったり。
言葉遣いもビジネスとは縁遠い感じがあったりして、田口元氏による『改訳版』と同じ本の翻訳とは信じがたい印象を受けます。
実際突き合わせてみると、章立ても内容も、それなりに合致はするのですが。
翻訳って難しい仕事だな、と思います。
そしてこれこそが、同じ本をわざわざ翻訳出版した理由なのかな、と。
何より問題なのは、この『旧翻訳書』の翻訳者が、GTDのことをあまりわかっていない、というと語弊があるとすれば、GTDを実践していない、というかそういうメンタリティがない、という点でしょう。
それを象徴するような文章が訳者によるあとがきの書き出しの3文。
「整理することがいいことであることはわかっていても、整理ができない人は多いことと思います。私もそのひとりで、机の上から紙の山が消えたことは滅多にありません。今も、紙の山から紙が一枚ずり落ちて、ワープロのキーボードの右端に、迫ってきています。」
GTDを実行していたらありえない状況なのは横に置いておくとして、2001年の出版本でワープロ・・・。
そういう人にこの本の翻訳を頼むというのはどういう事情があったんだ?、と。
ビジネス本とかハック系の話に精通していないとしても、「ToDoリスト」という言葉をどこかしらで知っていても良さそうですが、本書では「すべきリスト」としています。
直訳なので、このほうがわかりやすい、という向きも一部にはあるでしょうが、一瞬詰まりますね。読んでいて。
「これは何のことだ?」と。
それでも、『改訳版』には、省略が結構あって、それ故に混乱とまではいかないまでも若干違和感のあるところとかもあったので、原著に忠実な訳書というのはそれはそれで意味のあることかもしれません。
ひとつには『全面改訂版』でデビッド・アレンが、前回の版では自分の使っているソフトを紹介したけど時代の流れもあるから今回はそれはやめた、みたいなことを書いていたのですが、そんなのなかったけどなあと思っていたのです。
ところがこの『旧翻訳書』を読んだところ、アウトライナーとしてマイクロソフトワードを使っていることを、実際の画像付きで足掛け3ページと結構長く取って解説していました。
それを踏まえて『改訳版』を読み返してみると、一応ワードのことは書かれてはいましたが、画像もカットされていたし、文章もさらっと流す程度。
実際自分も記憶から飛んでいましたしね。
こういった訳者(というよりは監訳者である田口氏の意向?)による取捨選択が『改訳版』は多いのですね。
そういう意味では本書を読めたのは良かったな、と。
とはいえ、自分も卒論・修論の構成はワードのアウトライン上でこねくり回して形にしましたので、懐かしいというか記憶に残っているツールの一つです。
90年代後半からゼロ年代初頭の話です。
当時、論文執筆のメインで使っていたのはパワーブック2400。
ただ、それでも実際の文章はテキストエディタに戻って書き溜めていましたけれども。
そこも含めてワードで書いちゃうヤツとかも研究室には居て、当時、そいつに「重くないか?」と効いたら「重くない」という返事。
その場では、うーんそうかぁ、と引き下がったのですが、後輩にその話をしたら、「多分それ、テキストエディタのこと知らないからだと思いますよ。」と言われ納得。
確かに。
逆に学部時代には、同級生に、Windows付属の「メモ帳」だけで卒論を書き上げてきたヤツがいて、そっちはそっちですげー、となりましたが。
まあ、まだまだ牧歌的な時代ですね。
もっとももっと昔は、ハサミを使って自分で書いた文章を切り貼りして構成した、みたいな話も聞きますからね。
そういう時代に比べると道具を選択するのにも迷うくらいの充実な環境で、あとは書くだけなのにねー、なんて。
ちなみにこの文章はDynalistを使って構成して書いてみました。
あんまりその恩恵は被ってないですけどね。
書き流し垂れ流しの文章なので。
GTDについて、少し真面目に勉強してみたいけど、原書を読むのはしんどいかもな、という人にはおすすめの一冊。