佐藤将之『amazonのすごい人事戦略』読了。
アマゾンの日本法人の立ち上げから大きく発展するまでの時期を見てきた著者による本。
アマゾンの強さは人事にあるのだ、ということでその人事制度を紹介しています。
一読したところ、その要諦は社員の採用ルールで、人事制度と言えば人事制度なのですが、採用したその時点でほぼ決まっている話なのかな、と。
ただ、優秀な人材をいかに獲得するか、みたいな身もふたもない話ではありません。
「優秀」の定義も詰めずにそんな話が続いても困りますし。
本書でアマゾンの特色として書かれているのは、どうやったらうちに合わない人を採用しないで済むか、みたいなのを制度で追求している点でしょうか。
人を採用するにあたり、その人が組織にあうのかどうかを事前に知るのは難しいですよね。
ただ、入れてみてダメでした、みたいなのは企業にとっても働く側にとっても不幸なことです。
それを避けるために、企業の側もカルチャーを明文化しておく、というのは意外と重要なことなのだと感じます。
この会社はこういう文化を持っていて、こういう指針で動いているのだ、ということを予め練り上げておくことが、採用にあたっても判断材料として有用になる、と。
アマゾンはそこにかなりエネルギーを注いでいる、というのが特徴なのかもしれません。
もしかしたらGAFA的な企業はどこもそうなのかもしれませんが…。
一言に企業文化・カルチャーと言ってしまうところもあるなか、14個もの明文化された人事での理念が存在していることで、採用に際しても、そこに照らして合う合わないが判断されるわけで、ミスマッチも起こりにくい、ということですね。
どんなに優秀でもその文化に合わなければ絶対に採用しない、というのを徹底していて、それを見極めるのが専門になっているかのような面接官を置くところまで制度化されています。
著者の佐藤さんはセガからアマゾンに転職したとのこと。
略歴によると2000年7月だそうです。
セガが迷走を始めた頃でしょうか。
いや、セガはある意味常に迷走していたかもしれませんが…。
とりわけあの頃は、バンダイとくっつくという話が出たものの立ち消えになり、結局はパチンコ台の会社に拾われたのでしたね。
セガに就職した友人がいるのですが、当時、みるみるうちに心が荒んでいったのを見て、こちらも辛かった記憶があります。
セガバンダイの報道が出たときは、一瞬目に光が戻っていたので、社内的にもあれに期待をする向きは多かったんじゃないかなあ、なんて思います。
あれが破談になったこともあってか、結局彼は退職して、一時期は居酒屋のバイトとかしてました。
まあ、失われた30年、ロスジェネの一風景ですね。
著者はそういう時期に思い切って海の向こうの通販本屋さんの日本進出に飛び込んだのが良かった、ということでしょう。
少し世代は上の方です。
そんなアマゾンジャパンですが、昔は特筆すべき制度と言えるようなものなんてなかった、といいます。
無論、顧客としての我々も当初は通販の本屋さんという理解でした。
当初は1500円以上だと送料無料、というのが画期的で、一回の注文でその額を超えるのは苦じゃないし、こんなんじゃいつまで経っても黒字化しないだろうと思っていました。
ドットコムバブルが弾けたとき、間違いなくアマゾンも沈むと思っていたのですが、しぶとく生き残りましたね。
日本でも取り扱う本が増えて、本を買うならアマゾンが第一選択肢になったのがゼロ年代に入ってから。
すぐに届くというのが、なんともありがたかった時代です。
それまでは新刊の通販だと、図書流通センターとか使ってましたが、注文時には届くまで1ヶ月位かかる、みたいな表示がデフォルトだったような。
実際には一週間くらいで届くのですが、まあ、普通に本屋に注文するよりは良いかな、くらいの感覚で、まあ、そういう時間感覚だと利用者としてはアマゾンに傾いてしまいました。
翌日配送・当日配送が、なぜアマゾンに出来て他の日本の業者には出来なかったのか。
そのあたりを本の流通から解説したものは昔ネットで見かけたことがありますし、業界の大きな流れは橘玲さんの著作、例えば『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』あたりにもありました。
でも、本書ではそういう裏の話に落とし込むのではなく、アマゾンの人事制度が秀逸だったから、という話になっています。
徹底的に顧客に向き合う姿勢が社内にあったからだ、と。
まあ、人事制度の本なのでそういうことになります。
それにもちろんのこと、そういう上層部の人事制度と、『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』に出てくるような末端の倉庫での労働者の人事制度とは違うのでしょう。