三浦展『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』

三浦展『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』 評論

三浦展大下流国家 「オワコン日本」の現在地』読了。

帯にある通り、「ベストセラー『下流社会』から16年』なんですね。
面白い記事を書くアクロスの元編集長が、メインストリームに躍り出たのがあの本、ということなのでしょう。
バブル崩壊後、しばらくして人びとが薄々感じていた日本社会の変化のあれこれを、一言で表してくれた言葉としてこれほど的確なものはなかったように思えます。

ゼロ年代に入って階級化とか階層化に関する議論が盛り上がってきたのは、肌で感じていました。
先鞭をつけたのは佐藤俊樹先生の『不平等社会日本-さよなら総中流』[2000]だったでしょうか。
橘木先生などは、この手のテーマなら売れるとわかったからか、階級論の本を次から次に執筆するようになって、まあ、大学のセンセイも売れる本を書いちゃいけないわけじゃないもんな、と思ってよく立ち読みしたのを覚えています。
うん、買うほどじゃないんですね。橘木本は。

話が少しズレました。
で、論壇の世界でのこういう土壌があったところに、「下流社会」という適切なコピーとともにあの本がやってきたわけです。
三浦展さんの場合は、社会学部出身とは言え、元からマーケティング界隈の人ですから、売れ線狙いなのは当たり前。
普通は、こうやって一発当てると、○○大学教授とか講師とかいう肩書がついていそうですが、そういうこともない。
プロフィールには、ご自身で立ち上げたリサーチ会社のことは載っていますが。
そうすることで、炎上っぽい見立てでも、言い過ぎな分析でも、学術的な批判もかわせるわけで、そういった立ち位置も絶妙です。
三浦さんは、これ以外にも「ファスト風土」とか「愛国消費」とかコピーが秀逸ですよね。
さすがアクロス。
学生時代、アクロスは毎号楽しみに読んでいました。
渋谷のパルコブックセンターで発売日に買ったものです。

と、ここまでアゲておいてなんですが、今回のコピーは、「大下流国家」「オワコン日本」とのこと。
あんまり語感が良くない、というか。
キレが良くない、というか。
いや、言いたいことはわかるのです。読まなくても。
でもなんか三浦さんっぽいコピーじゃないんだよなぁ、と。

本書の内容も、少し愚痴が入ったり、主義主張が入ったり。

NHKが調査結果を開示してくれなかった、とこぼしたり。
また、自身が所属していた三菱総研で200万で調査ができたのだから、大マスコミ様ももっと調査してみてよ、というのは提言を装ってはいますが、これは実は三菱総研に対しての「もっと調査費用をくれ」という要望だろうな、という箇所とか。
それに、
「清濁あわせのむことを好むのが日本人なのかもしれないが、安倍政治に「清」があったとは思わない。」
というのは、それはデータとは関係のない意見なので・・・。
アベ政治と書かないだけまだマシですけれど。
(ちなみにGoogle日本語入力だと、一発変換では「アベ政治」でした)

小池都知事による都立図書館のコロナ禍での閉館に文句を言いたい気持ちはよくわかるのですが、彼女を反知性主義と断ずる理由がよくわからないし、「閉館理由を邪推してみる」、と無理めな仮説を挙げるあたりはよくある嫌味なオヤジのそれ。
小池百合子のパフォーマンスを無理して分析しないでも・・・。
というか本書のテーマと関係ないじゃないですか・・・。

とはいえ、アンケート結果を元に人びとの考えていることを分析してみせる様には、切れ味は残っています。
若者に下流意識が無いのは、景気の良い時代を知らないから、とか。
また、安倍政権への支持について、全体の傾向としては「階層が高いほど安倍評価も高く、階層が低いほど安倍評価も低い」としています。
しかし、その例外として、愛国的な下流の中年層で安倍評価が高いのは、小林よしのりの影響があるのでは?という仮説だったり、学歴が中位大卒以上なのに階層が「中の下」だと安倍政権を評価しない、とかは、相対的剥奪感で説明できるやつだな、とか。
単なるデータ屋では出てこない視点に思わずニヤリとさせられます。

ある程度タイトルと目次で内容が読めてしまいますが、さっと読み通しても損はない一冊です。

三浦展本

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