水道橋博士『藝人春秋Diary』読了。
週刊文春での連載のうち、2017年GW号から2018年7月19日号までの内容とのこと。
しかし、出版元を見ると文藝春秋ではないし、なおかつ出版時期も2021年10月になってから、というあたりが少し引っかかったのですが、それらの理由もすべて本書の中に収められていました。
師匠ビートたけしの独立、オフィス北野の解体、自身の闘病、それから意外と大きそうだったのが、母上を亡くしたこと。
バタバタしているうちに、これくらいのときはさっさと過ぎてしまうということなのですね。
それらの事情とは別に、本書には連載時の文章の後に今の時点での振り返りが挟んであるのですが、見事にこれが、コロナ前の日常をコロナ禍の今振り返る、といった体になっています。
そういえばそんな事件もあったよなー、的な振り返りですが、わずか3年とか4年とかいう前の話でも、かなり昔のように感じてしまったりするのですね。
確かにコロナで我々の意識・生活は分断されたということでしょう。
著者水道橋博士が、港区の広報誌にコラムを連載していたのを、昔楽しく読んでいました。
短いスペースでの内容でも必ずオチがあったりして、単なるたけし軍団の人、という印象が崩され、文才があるなあと。
その後『藝人春秋』が話題になったとき、ああやはり文章で売れてきたんだなぁ、と感じたものです。
本書によると、母上も自分の息子の才は文にしかないと見切っていて、漫才コンビとして売れていたころも、すぐに売れなくなると踏んでいたそうですね。
それが当たったのか外れたのかはわかりませんが、少なくとも芸能界ではしぶとく生き残っているし、こうして本も出版しているわけです。
それにしても、本書は藝人春秋の4作目とのことですが、流石に最初の『藝人春秋』が話題になったのは覚えているものの、そんなに出していたのか、と驚いたのですが、実際2,3作目は売れなかったそうですね。
癖が強い、というか、いちいち文章が上手い、掛けが多すぎ、で疲れるということはあるかもしれません。
引き出しの多さという点では、吉田豪と双璧をなす御仁かもしれませんが、吉田豪が徹底的に自分を出さない、自分の意見を出さないのが売りだとしたら、博士の場合は、幼少期も含めた自分の記憶・記録を交えて相手に飛び込む、そしていつの間にか自分ごととして語り合ってしまう、そんなところが魅力だと感じました。
そして、両者ともどんな相手に対しても、敬意があるところが素晴らしいですね。
それが相手にも伝わるので、思わぬ話も引き出せるという。
そういう意味では、水道橋博士もまた、プロインタビュアーです。