ブルック・ハリントン『ウェルス・マネジャー』

ブルック・ハリントン『ウェルス・マネジャー』 評論

ブルック・ハリントンウェルス・マネジャー』読了。

タイトルからすると、ウェルス・マネジャーなる人が業界の裏話を暴露するとか、資産運用のノウハウを伝授するとか、もしくは、そのノウハウの触りだけを書いて、あとはぜひ我が社に資産管理をお任せいただければ、、、的な宣伝本かと勘違いしてしまいますが、全く違います。
ウェルス・マネジメント業界に潜り込んだ社会学者によるエスノグラフィ。
ウェルス・マネジャーの養成機関に通い、その間に知り合った人々へのインタビューを元に、業界の来し方を書き記した大著。あとがきには執筆に8年かかったとあります。

十字軍として出兵する貴族が、自身が帰還しなかったときのために前もってその資産の管理・相続の手続きを、親しい友人・親族に依頼したあたりから始まるウェルス・マネジャーの歴史を、資産の金融化とグローバリゼーションが職業としてのウェルス・マネジャーを生み出し、彼らがオフショアの金融センターを駆使して資産の継承を図ったことが、世代間での格差の固定・拡大を進める結果となったところまでを、方々へのインタビューを書き起こす形で進めます。

著者には、経済格差の拡大についての議論は所得面から語られることが多いが、資産、そしてその世襲による再生産という面から語られるべきことなのではないか、という問題意識があったとのこと。
問題は後者には分析するためのデータがないことですが、そんなものはどこを探しても出てきません。富裕層はウェルス・マネジャーの知恵を使い、懸命にその所在を隠し租税回避を行っているからです。
我々が把握できるようなデータ・統計があるなら、その前に税務当局に捕捉・課税されてしまっているでしょう。
パナマ文書・パラダイス文書とかいう形で意図せずその一部が漏れることはあっても、それで統計的な何かを語れるわけでもありません。

本書で指摘されて初めて意識したのですが、こういった事情から、金融という最もデジタルでデータ・ドリブンな世界の話であるのに、統計を分析する形での研究にお目にかかることもなかったわけです。
というわけで、ウェルス・マネジメントの実践についてのエスノグラフィーという珍しい本。

著者の問題意識が格差論にあるため、ウェルス・マネジャー資格を得ても、国家とは資産を収奪する機関であるとするウェルス・マネジャー業界の「常識」にも染まることなく、ウェルス・マネジャーの歴史、顧客との関係、そしてその仕事がどのように富の世襲に関わり、不平等を再生産していくかを淡々と記述していきます。

オフショアの国に住む現地の住民が、海外からの資産を受け入れても恩恵を受けないどころかますます困窮していく様、また大国の規制一つで国の隆盛も一瞬で終わる様をみて苦悩するマネジャーの本音も引き出したりするあたりは、社会学者の真骨頂かもしれません。

また、著者がウェルス・マネジャーの性別・人種別の分布について触れているのは、それ自体への関心というよりは、顧客とマネジャーの関係を通して階層の偏りについての切り口としたかっただけでしょう。
ブルデューの『ディスタンクシオン』のように、顧客である富裕層が付き合う相手として選んだマネジャーにもまたこのような偏りがあり・・・、といった論調で、階層の違いが趣味の違いに現れそれが再生産を生む、的な論法へとつなげる意図が、当初はあったのかもしれませんが、ウェルス・マネジメント業界では必ずしもそういった結論は得られなかったようです。
高卒で銀行の事務職からの叩き上げの女性マネジャーとか、まったくの庶民だったが海沿いの街出身で小さい頃からヨットに乗っていたので、その特技で富裕層の懐に飛び込めたマネジャーとか、そういう面白い事例も事欠きません。
まだ職業としてのウェルス・マネジャーが成立して日が浅いということもあるでしょうが、結局は資産を減らさない能力がまず求められるわけで、個々のマネジャーにとってはその実績が紹介を通じた顧客基盤の拡大につながっているのだろうと思われます。
武士の家計簿』の主人公、加賀藩の会計役人「御算用者」が下級武士であったものの、そろばんの能力で出世していったのと同じような感じでしょうか。

読み進めると、富の源泉が単純に個人が不動産を所有していることであった時代には、そこからあがる収益への所得税にせよ、それが世襲される際の相続税にせよ、課税は簡単であったのだな、と感じます。
資本主義が進み、法人の株式がそれに加わっても、それが創業者が個人で保有していただけであれば、まだ捕捉も容易。
しかし、オフショアの信託・法人を通した保有でその法人の株主も匿名だとなると、やはり一国の税務当局では手に負えないのでしょう。

かくして富は世襲され、委託者の手を離れてウェルス・マネジャーによって管理される。
「売り家と唐様で書く三代目」ということわざも今は昔。
しかし、アラブの富豪の子息がフェラーリを買いたいと言ってきたがやんわりと拒絶したというマネジャーの話を聞くと、一体その富は誰のもので何のために管理されているのだろうと考え込んでしまいます。
委託者とマネジャーの主客は転倒し、富自身が増殖していくわけです。
そこには文化資本と経済資本の総量が、とか、その差が社会的成功の、とかいった議論が成立する余地はなく、マネジャーの管理の下、ただデジタルの数字だけが時とともに増えてゆく。
他方では、少なくとも餓死することはない状況とはいえ自らの困窮に怒りを覚えオキュパイ運動に身を投じる人々がいて。
そんな世界に、我々は生きています。

内容の薄い格差社会論と一線を画す、(オキュパイ運動が言うところの)1%の側から見た資産運用の実践についての骨太エスノグラフィ。

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