若江雅子『膨張GAFAとの闘い』読了。
読売新聞の記者による、ここ数年の日本のデジタル関連の法整備に向けた動きのまとめ本。
副題は「デジタル敗戦 霞が関は何をしたのか」というものですが、本書の内容からしたら、「何をしなかったのか」とか「何ができなかったのか」とか「何をすれば良かったのか」とかいうほうが、著者の思いを載せるのに適したものだったかもしれません。
このあたりは著者と編集・出版社との間のせめぎあいというか妥協というか。
内容は、GAFAがやってきてそれに右往左往する日本政府、官庁の動きを追うものです。
Amazonレビューにも、黒船とそれに対応する日本の図式になってしまっている、という指摘があるように、少し内向きの議論が多いのですが、もともと本書はそういう目的の本だろうと思います。
新聞記者さんなので、海外の事情にはそんなに精通していないというのはあるでしょうけれども、アメリカ・EUの動きについても、少なくとも法制度として出来上がったものについては、解説はされています。
なので、海外の動きの解説がない、とまで言うのは酷です。
それでも、そう感じてしまう人がいるとすれば、チャイナについて、ほぼ触れられていないからだろうと思われます。
チャイナの現状について語らずに何がIT技術と法制度の話だ、的なモヤモヤ感。
ええ、わかります。
米中戦争の只中にあって、片側の陣営のことだけ述べていても、というね。
確かにその意見は、ごもっともですが、チャイナを扱うのだったら法制度ではなく党の話になるだろう、という気も・・・。
そもそも、本書の射程からしたら「GAFAとの闘い」なので、すでに彼らが撤退して以降のチャイナの動きについて言及がないのを責めるのは筋違いになるのでしょう。
そこも含めての議論なら、GAFAに加えてBATも扱わないといけないでしょうし、そうするといよいよ一般紙の社会部記者ではなく、チャイナの専門家も巻き込んでの事案になってくるのでしょうね。
無論、「新聞記者さんなのだから仕方ない」的なハードルの下げ方は物分りが良すぎる、というのはあるかもしれませんが、普通の新聞記者の方に多くを期待するほうがおかしいというのが自分の考えです。
彼らの尋常ではない忙しさとかを知ると特にそう思うのです。
基本的にバタバタ動き回って足で稼ぐ職業で、インプットからの思索とか、一歩引いた分析とか、そういうものを求めるのは違うのかな、と。
いろいろな人に会いに行けるので、耳学問みたいのはありますが、腰を落ち着けて何かを追う、みたいなことは難しい職種だと思っています。
あと、ひとつ気になったのは、終章でのさくらインターネットの田中氏へのインタビュー。
彼の言う、「日本でGAFAが生まれないんじゃない。日本はGAFAになろうとする企業をポンポン潰してきただけですよ」という発言。
彼の言う「日本」を、ライブドアの件での検察の目線として、著者は引き取り、筆を進めています。
インタビュー時も、その方向で会話が続いたのだろうことが、その後のキャッチボールでわかります。
その半分には同意します。
少なくとも検察のスタンドプレー的なところはあったでしょう。
ただ、検察は世論(というのが漠としすぎているならマスコミの論調とでも)を気にしながら動いているわけで、ホリエモンをよく思わない世論がなければ、ああいう捜査もないわけです。
となると、あれを潰したのは、そういう世論というか誰かの嫉妬心とか、そういうものだったのではないでしょうか。
検察は断頭台ではあっても、そこに送るのは我々国民です。
昨今の五輪を巡るドタバタ劇などを見ても、あの頃以上に「世論が許さない」的なノリは強くなっています。
そしてそれは、何かをを変えよう・作ろうとする動きを徹底的に潰してしまうので、こうなると詰みますね。
この先、どうにも身動きが取れずに衰退をする以外にないのかな、と。
ウソかホントかは知りませんが、突貫工事のせいで、結局ザハ案の当初予定の建設費を超えてしまったとかいう国立競技場とか、すでにお亡くなりになったザハ女史を含めて、誰も幸せになっていない様もまた、それでも世論が許さなかったことの帰結としても、なんだかなあ、と。
「GAFAとの闘い」ではあっても、本書を通して繰り返し見られる構図は、規制のグレーゾーンを、果敢に攻めてくるGAFAと、風評リスクを考えて動かない・動けない国内事業者というものです。
世論の吹き上がりを恐れて、何もしないことが最善手となる国内勢を尻目に、たとえグレーが黒になっても、課徴金なんてたかが知れている、という姿勢のGAFAが概ね総取りになっていくのですね。
国内勢は、とにかく目立たないように、という意識で事に臨んでいる以上、仕方ないのでしょう。
「なぜ日本にGAFAが生まれないのか」の答えはすでに出ていました。
その意味で、田中氏の言う、GAFAが生まれないのは日本が潰してきたから、という意見に、一周回って賛成で、そして絶望するものであります。