『証言 初代タイガーマスク 40年目の真実』読了。
著者欄には、「佐山聡+高田延彦+藤原喜明+グラン浜田他」と書かれていて、基本はインタビュー集なのですが、インタビュアーが前面に出てこない作り。
そのせいかどうか、どうもノンフィクションにあって然るべきストーリーのようなものがなく、話が拡散してしまっている印象。
本書が対象としている読者には、一通り、佐山聡と初代タイガーマスクのことを知っていることを前提としているのでしょう。
なので、少し読んでいて辛いところはありました。
なお、アマゾンレビューでも「佐山を「穏やかで敵を作らない人」という人がいたり「キレやすい」という人もいる。」とその食い違いに腹を立て星1つにしている人もいます。
さすがにそれはその証言者にとっての佐山がそういう印象だった、ということなので、それはそれとして扱うべきだろうとは思います。
ただ、そういった人物像を無理なく統合できるライターさんが入れば良かったんでしょうけどね、という感想は持ちます。
一人の作者によるノンフィクションにしなかったことでの弊害なのでしょう。
でも、本の中でその像のブレについての原因については回答がでているのですけれどもね。
例えばターザン山本に
「佐山は、人が、団体が、世の中が、自分に求めているものが何であるかを誰よりも素早く察知できる人間なのだ。自分がたとえ望んでいなかったことでも、相手の要求に抵抗なく合わすことができた。」
と書かせた冒頭を、終章での息子である佐山修斗の
「テレビの取材か何かが入ってたんですけど、父がキレまくってるんです。そんな姿は初めて見たから怖くなっちゃって。母に『どうしたの?』って聞いたら『父さんに聞いてみなさい』と。それで直接聞いたら『ああ、あれはヤラセだよ』って言ってましたけど(笑)。」
で回収させたあたりとか。
ただ、人によって印象が変わるのは良いのですが、本書に出てくる証言者のそれぞれが、その人のなかでドッチラケになっているところもあって、まあ、こういう人たちの中で生きるのは、やっぱり大変だよなぁ、と(小並感)。
一番エキセントリックなのは、新間寿。
一時期、タイガーマスクのマネージャーのように振る舞っていたショウジ・コンチャについて、
「俺がそう言ったかもしれないね。ショウジ・コンチャには反社会的な付き合いがあるから、あれがもし佐山の結婚式に出て記念撮影なんかをして写真に残ったらね、とんでもないことになりますよ。」
と、自分は反社と距離を置いているかのような話をした後、
「何が誰の挑戦でも受ける新日本だって。俺のほうがよっぽど挑戦を受けてるよ! なにをとぼけたことを言ってるんだっていうの。お金の問題じゃない。それで俺が頼み込んで、『新間、大変だな』って助けてくれたのが安藤昇先生」
と安藤組組長の名前を出すのです。
そんな名前を聞いたのロバート・ホワイティングの『東京アンダーワールド』以来ですよ・・・。
本書は、佐山聡と関わった数人に、特にテーマを指定することなく佐山についてフリートークをしてもらうという企画だったのでしょう。
それでも、猪木が高田にかなり期待していたことや、山崎はレスラーではなくトレーナーとして佐山に誘われたことなど、ぽつりぽつりと出てくる知らない話で楽しめました。
確かにタイガーのデビューから40年。
皆さん、健忘とか記憶違いとかそっち方面の心配はあるものの、もう自分を大きく見せたがるとか、そういう時期を超えているので割とニュートラルな話が出てくるものですね。
なにせ自分が知っているのは、子供の頃に読んだ『プロレススーパースター列伝』での知識と、数年前のNHKの「アナザーヒストリー」だけでしたからね。
ま、山本小鉄とかマサ斉藤とかの重鎮がいなくなったので言える、という話もあるのでしょうけれども。
そういう意味では、猪木御大の後にはどんな「実は・・・」な話が出てくるのか・・・。
いや、期待してはいけません・・・。