大塚将司『回想イトマン事件』を読了。
悪意を持って言うなら、渦中で飛んだ怪文書の作者による振り返り。
より正確には怪文書を作成した当事者二人のうちの片方の回想。
もう片方の方の告白については、國重惇史『住友銀行秘史』(以下『秘史』)を読んでください、ということでしょう。
というよりも、本書は『秘史』を読んだ人に、私の立場ではこうでした、ということを説明する本という位置づけですね。
ちなみに『秘史』って、単行本よりKindle版のほうが高いんですよね。
どうしてでしょうね。
基本的にKindle本は、セールじゃないときに買うと損するような気がしてしまうのがよろしくないですよねー。
そして積ん読が増える、と。
話がそれました。
イトマン事件の本の話でした。
本書については、イトマン事件についての予備知識がないとあまり良くわからないところが出てきます。
というより事件そのものの振り返りというか、そういうところの解説を目的とした本ではないのですね。
事件の裏側で自分たちがどう動いたか、というものなので。
『秘史』が住銀内部の話とすれば、本書は日経内部の話。
聞き手も元新聞記者なので、日経内部での政治的な思惑とか報道の作られ方とか、そういう方向に引きずられがちになっています。
なので相当に読者を選びます。
ちなみにあの事件を反対側の当事者からみた本として一番面白かったのは、森功『許永中 日本の闇を背負い続けた男』ですね。
イトマンだけを取り上げた本ではないですが。
やっぱりバブルにはバブルの似合う人々が出てくるものだな、と。
なお、この『回想イトマン事件』で一番おもしろかったのは、実はイトマン事件の舞台裏のことではなく、著者が三菱銀行と東京銀行の合併を取り持ったという裏話。
著者の、大手行だけでなく大蔵省だったり日銀だったりの幹部からの信頼が厚い日経の記者というポジション自体が面白かったわけですが。
ただ、それも少し賞味期限切れなのかな、という。
そもそも本書を書くことに決めたことのひとつが、安倍(元)総理の取り巻きの忖度に端を発するスキャンダルに憤慨したから、というのが、ちょっとなぁ、と。
それでいて自分はジャーナリストではなくサラリーマン記者だ、という物言いもあったり。
俺たちの時代は準強姦事件を起こすような記者はいなかった、みたいな物言いは、多分元TBSの山口氏のことを指しているのでしょうが、西山事件とかは記憶から抜けちゃってるのかな?とか。
他紙の記者だから関係ない?
やっぱり上の世代の価値観はわからないですね。
漠とした正義感で住銀・イトマンの闇に切り込んだかと思えば、公的資金投入で銀行を救うことが日本経済にはプラスだったと信じつつも、自分はサラリーマンだからそれに反発する世論に抗う記事を書いたり動いたりはしなかった、と言う。
それでいてそのことに悔恨がある、と言ってみたり。
結局のところ、先人たちのやりたい放題に振り回された結果が、我々ロスジェネの今日ということなのでしょうね。