島口大樹『オン・ザ・プラネット』読了。
登場人物は本編の殆どが4人なのに、誰のセリフなのか分かりづらかったり、最終章まで来て一人称の主体が代わったり、と色々と読みこむのに難はありましたが、こういう荒削りな作家を一人前に育てていくのも業界のお仕事なのかもしれません。
芥川賞候補作とのことです。
映画を撮りに横浜から鳥取まで向かうまでの車内での会話を主に話が進みます。
途中、浜松や大阪などに立ち寄るものの、その土地が何らかの意味を持っているという感じではありません。
あくまでも登場人物たちの会話が主。
その会話文の連続を読んで月並みな感想を言うと「若いっていいなぁ」です。
学生時代特有のくだらないことも言い合えるフラットな関係で、世界について考えたことを言い合う感じ。
変に社会学を齧ったような学生が混じり込んでいないのも良いですね。
それぞれが自分の頭で考えたことを自分の言葉で表現しようとしていて。
また、主人公はそんな思いのあれこれを映画に撮るところまで踏み込んでいるわけで、それに付き合ってわざわざ鳥取まで一緒に旅をしてくれる仲間がいるというのもなかなかに素晴らしい。
道中で、主人公が家族を自死で失っていることだったり、登場人物の弟が数年前に失踪したことだったりが明らかにされるのですが、それによる深い喪失が、とかいう話でもありません。
いずれも自分の人生の中で、過去にそういうことがあった、ということは事実として、それはそれ、という態度で進んでいくのが新鮮でした。
そこまで突き放すなら別にエピソードとして要らなくないか?みたいなことまで考えてしまうのは、自分はすでに古い世代の人間なのかもしれません。
主人公は、時折父の声が聞こえてくるのですが、それだって自分が作ったものなのだよな、として納得してしまうあたり、世界はあくまでも自分にとっての世界だとする考えの現れ。
それでも、鳥取からの帰路、曽祖父の家に立ち寄るなど、ルーツとして依って立つものを欲したり、その寄る辺ない自分の危うさからか、世界は終わったんじゃないかなどと、つぶやいてしまったり。
それらを含めて、「若いっていいなぁ」と目を細めてしまうのでした。