新井和宏『あたらしいお金の教科書』読了。
漢字にはすべてふりがなが振ってあるので、子ども向けかと思いましたが、もう少し上の中高生くらいを対象にした本かもしれません。
鎌倉投信の創業者である新井さんの著書です。
新井さんの本を読むのは初めてですね。
でも、高井浩章『おカネの教室』に登場する投資の先生も、モデルは新井さんだと思っているので、思想に触れるのは二冊目としておきます。
新井さんの経歴は、プロフェッショナルで見たのでだいたい把握しています。
でも、あの番組で一番印象に残っているのは、オフィスにしている鎌倉の民家のまわりを、ほうきとちりとりを持って一人で掃いてまわる姿で、「こんなとこ映すなよー」と言いながら喜々として掃除しているのが印象的でした。
結構な長時間だったのか、映像は早回しになってましたがw
ああいうところに、人柄というのはにじみ出てしまうのだな、と。
投資哲学も然り。
資本主義とはグリーディー(強欲)なもので、日本人にはそれが足りない、というようなことを言っている人がいらっしゃるようですけれども。
まあ、そういう界隈からしたら、一見すると鎌倉投信の目指しているところは甘いとかぬるいとかそういうことになるのでしょうけれども、そもそもベクトルが違うのでしょうね。
ベクトルが違う、という言い方が適切でなければ、それらグリーディーな企業活動をも包含する社会をデザインするところまでもが投資家の仕事だとして引き受ける覚悟というのでしょうか。
45歳を定年とするとしても、この文脈でいうと、グリーディーな企業が儲けるためというのが第一に来るのではなく、個人が輝くために、新たな生きがいを見つけるために、あえて引くラインとしてそのあたりが適切なところじゃないか、くらいの解釈になるでしょうか。
本書も、駆け足ではあるものの経済から地域通貨、ベーシックインカムまでが解説されていて、単に企業活動についての話だけではありません。
そういうスケール感も含めてその理念に共感する人が増え、鎌倉投信のファンドサイズも大きくなっているというのが興味深いです。
善人の善人による善人のための投資というか、世の中を良くするための手段としての投資を考えるという、こういう哲学が理解されるというのはなかなかに微笑ましいです。
日本の運用のスタンダードまでは言わないまでも、一定の存在感はあって欲しいな、と率直に思います。
ご本人はスタンダードになる、という気概を持ってやっていらっしゃるかもしれませんが。
もともと、あの会社はそういう人間が集まっているというか、あまり運用っぽくない人が集まっているようなところはありますよね。
自分の知り合いにもあそこで働いている人間がいますが、鎌倉投信に転職すると聞いたとき、あー、そう来たか、と納得のいく真っ直ぐな奴でした。
その報を聞いた瞬間、彼のそういう一本気なところは金融には向かないんじゃないか、なんて思っていた自分を恥じる、みたいなところはありました。
その真っ直ぐさをナチュボンと呼びたければ呼べ。
その姿勢が未来を切り開くんだ、といったところでしょうか。
バフェットが偉大な投資家で、有望で割安な銘柄を仕込み持ち続ける、という投資哲学で今の地位を築いたということに異論はありません。
でも、基本は発展を続けるアメリカ経済にベットしたということがベースにあります。
なかにはコカ・コーラに代表されるように「中毒性のあるもので商売している企業に投資しろ」という個人の健康を考えたらさほど褒められたものでもない哲学もあったりして。
少なくとも、社会をデザインするとかそういうところまで考えていたようには見えません。
本書は、クレジットカードでものを買うことを習慣づけないように、とか、他方ではあまり貯金するな、とか、日々の個人のお金の使い方についての指南も多いです。
これは、「お金の教科書」という題だから、ということもありますが、投資によって世の中を変えることができるという信念と、投資家は別に一部の大金持ちだけである必要はない、という考えと、だから君もお金の使い方を誤らずに投資家の側に来てほしい、という希望とが、本の中に込められているからなのではないでしょうか。
投資とは単に個人の蓄財の手段なのではなく社会変革の一貫なのだ、と。
それを自分たちのファンドを通してやってみませんか、というのは営業としては非常に強い。
単に、このファンドは期待利回りが何%です、というのとは比べ物にならないですね。
どうせ先のことなど誰もわからないのだから、リターンではないところで訴求できるのならば、そのほうが良い。
そんな鎌倉投信の強さもわかってしまう一冊。
一点ツッコミがあります。
借方貸方の考え方に近いですが(実際には少し違う)、ざっくり理解するために、経済活動について、お金を右手で集めて左手で渡す、というイメージで考えることを勧めています。
しかし、それぞれの属性に合わせて事象を説明する図では、それぞれがこちらを向いて説明しているので、左右逆になってしまっているのですね。
ま、あくまでもイメージなので良いのですが。