ウラジーミル・ソローキン『親衛隊士の日』読了。
ウクライナ紛争勃発後、どうもロシアについて自分はまったく理解できていなかったことを痛感しました。
行ったことが無い国なので、肌感覚でもわからないのは当然なのですが、一連の侵略行動であったり、稚拙なプロパガンダだったり、予想の斜め上をいくことが多く、なかなか頭が追いつかないこともしばしば。
とはいえロシア理解のために今更『罪と罰』でもなかろうと言うことで、こちらの本を手に取ってみました。
ネットサーフィンをしているときに、本書が現代ロシアを読み解く予言の書、という触れ込みで紹介されていたということもあります。
本書が描く世界は近未来のロシアですが、訳者あとがきによると、著者は「もちろん、これは現在に関する本です。」としているとのこと。
ロシア国内の現状を考えると、近未来であったりSF的であったりさせて、現状の風刺ではないという体にしないと出版できない、という事情があるのでしょう。
いろいろとカモフラージュがされているのだろうことはわかるのですが、それが何の暗喩なのか、とかそういうところまではわからなかったりします。
かなり細かく脚注が入っていますが、まあ、仕方ありません。
内容はというと題名通り、陛下に使える親衛隊士の日々を綴った体になっています。
陛下のために、検閲から汚れ仕事までを請け負う親衛隊士の仕事を通して、ロシアのロシアたる様を読者に印象付ける形。
近未来と言いつつ、吐き気がするほど野蛮で、こういうのが、ロシアの本質なのかと。
暗殺あり強姦あり男色ありドラッグあり。
一方で、経済活動が停滞しているのは当たり前で、経済圏としてはほぼチャイナの植民地と化している様が描かれています。
それに留まらず、東沿岸部においてはチャイナに侵食されており、そこでの納税についてチャイナと議論になっているなどする実態も。
それらも含めて、もしかしたらこのウクライナ紛争後の近未来についての「予言書」なのかもしれませんが、無論ウクライナ紛争以前に執筆された作品です。
「我らが太陽のクリミア」なんていう表現もあったりしますが。
このあたり、旧ソ連の構成国はロシアのもの、という意識はあるのでしょうね。
北野映画を見て、これが日本の本質だ、とか言われると困るように、この本を読んでこれがロシアの本質だ、なんてことを言うとロシアの人も起こるでしょうけれども、ブチャでの現実とか見てしまうと、うーん、まあこういう考えでいたらそうなるかなぁ、なんて暗澹たる気持ちになるのでした。