西加奈子『夜が明ける』読了。
手に取ったきっかけは、よく行く本屋でずいぶんと長いこと平積みになっていたからです。
半年以上かな?
結局それに根負けしてしまった感じです。
無論、楽しませていただいたので後悔はしていません。
書店員の仕事とは、こういうものかもしれませんね。
1977年生まれの著者が書いたロスジェネ男子の友情物語でした。
ただ、同世代の主人公のことを書いたにしては、少し登場する事件がこの10年に偏っているような気はします。
3.11とか秋葉原連続殺傷事件とかは出ているのですが、オウムとか山一・拓銀とかはなし。
ジュリアナはバブル崩壊後の現象だというのは、我々世代はリアルで見ているので混同はしないはずですが、バブルの象徴として描写されているし、書き味がロスジェネっぽくないというか時代がずれている感じがしました。
ただ、そう思いながら読み進めると、物語の最後が2016年の夏で主人公が33歳という設定なので、1983年生まれ。
そう考えると、ロスジェネのど真ん中というよりポスト・ロスジェネ的な主人公として見るべきなんでしょうね。
Wikiで見た限り、著者は海外駐在の長いご家庭で育ったようです。
本書の帯にも「当事者でもない自分が書いていいのか、作品にしていいのか」とありましたが、やはり完全な同世代の物語を当事者の語りとして落とし込むのは難しかったのかな、という気がします。
メインのロスジェネよりは少し下の世代の、それこそ「親ガチャ」に失敗した勢の物語として読むのが自然です。
なので、ロスジェネを強調する必要はなかったような気が…。
彼ら彼女らのその貧困は、確かに社会の失敗かもしれません。
しかし、主人公の家庭の没落についても、その親友の貧困についても、ロスジェネならではのストーリーにはなっていない気がするのですね。
シングル家庭のDVであったり、歳を取り仕事が少なくなったフリーランスの悲哀であったり、障害者が労働がはじき出される様だったり、それらはもちろんストーリーとしては成立するのですが、ロスジェネ特有のストーリーではないですよね。
是枝監督が好きそうな題材ではありますが。(実際、是枝監督も本書の帯を書いてます。)
とはいえ、勤め先では若手が配属されないからずっと下働きだとか、ようやく入ってきた若手はまるっきり異物のような精神構造だとか、そういうロスジェネあるある話は盛りだくさんです。
テレビの下請け制作会社に入った主人公がテレビ局のプロデューサーに、社会人1年目の生意気は骨のあるヤツだけど30過ぎてのそれは単にイタいヤツ、とイビられるあたりなんか、グッと来ますね。
自分など真面目に働きだしたのが遅かったこともあり、30なんてすぐに来てしまいましたが、それでも下働きが多く、こんな仕事を続けているうちに40になってしまうのかな、なんて絶望したこともありましたから。
ストーリーとしては、主人公の下についた若手が組織の異物であったがゆえに、まさにその彼女の行動によって自分が救われるという展開です。
救われると言っても、彼女のおかげで引きこもりの廃人のような生活から生活保護を申請できるまでに回復した、というレベルのもので、徹底して「失われた世代」っぽく描かれるわけですが。
ラストについては、手始めに自分やその親友にも少なからぬ縁のあった政治家のドキュメンタリーを撮るところから、徐々に人間的な生活を取り戻していきたい、という主人公の希望と理解しました。
ドキュメンタリー作家。
これまた食えない職業ですけどね。
でも、発表する媒体ならいくらでもある時代です。
彼にとっての「夜が明ける」はコッカラっすね。