鈴木荘一『鎖国の正体』読了。
副題が「秀吉・家康・家光の正しい選択」というもので、彼ら3人の選択によって日本は不毛な宗教戦争をすることなく、平和な江戸時代「パックストクガワーナ」を過ごすことができた、というのが本書の視座です。
本文では信長についても触れていますが、信長はむしろキリスト教を利用しようと布教を許す立場だったので、この副題には載っていない、ということなのでしょう。
秀吉以降の為政者が、イエズス会をはじめとしたカトリック勢力の裏の野望に気づき、それをかわすなり排除するなりした結果、日本は「鎖国」となったという経緯がさっと纏められています。
読後感としては、秀忠の仕事もそれなりにあったように思えるのですが、抜けてしまうのは書名としては3人に絞ったほうが収まりが良いからなのでしょうね。
現在学校で採用されている歴史教科書が、鎖国への経緯がどういう記述になっているのかは知りません。
自分らが学んだ頃は、島原の乱、バテレン追放、鎖国、といったトピックでの把握くらいでしょうか。
本書によると、一時期は「鎖国」という言葉も教科書から消えていたとのことです。
色々と見直しは入っているのでしょうね。
ともあれ、著者なりに子どもたちにはこういう話の展開で教えて欲しい、というような見地からの執筆だったのかな、という気がします。
著者の他の本を読んだことはないのですが、アマゾンのリストを見ると、書名に「正体」とか「真実」とかいう言葉が多いのが少し気になります。
ただ、本書に関してはそんなに違和感のある、というか陰謀論チックな内容はありません。
カトリック対プロテスタントの戦いの構図が、日本でも展開されたことなど、「日本史」で括ると抜け落ちてしまいそうな点など、参考になりました。
でも、日本側が、貿易と宗教の分離を求めたことで最後はプロテスタント国との交易に傾いた、というのはわかるのですが、そこでイギリスでなくオランダになった、というのがまだ少しわかりませんね。
本書ではイギリスが商売下手だったから撤退したに過ぎない、という主張ですが、ここはもう少し深く知りたかったところ。
なお、著者は元興銀マン。
プロフィールによると、2001年に退職し、その後は「歴史研究家」とのことなので、興銀の名前が消える前に辞めたのでしょう。
みずほになってから辞めるよりは賢明な判断でした。
これも歴史家としての勘が働いたのでしょうかね。