白蔵盈太『あの日、松の廊下で』読了。
これもKindleunlimitedでの入手です。
原題は『松の廊下でつかまえて』だったそうでそっちのほうが面白かったのにな、と。
狙いすぎ感があったからでしょうか。
確かに青春小説ではないですからね。忠臣蔵は・・・。
それはともかく、忠臣蔵というかその契機となった松の廊下での刃傷沙汰が、どうして発生したのかを、梶川与惣兵衛という旗本の目を通して語るお話です。
で、この梶川与惣兵衛というお名前、初めて聞きましたが、それもそのはず、「殿中にござりまする」と浅野内匠頭を羽交い締めにしていた人だそうで、いやー、それは知らないですね、と。
忠臣蔵のお話は、だいたい事件後が長いわけですから。
浅野内匠頭でもなく吉良上野介でもなく、ましてや四十七士の誰でもない人物を主軸に話が進んでいきます。
謹厳実直な貧乏旗本が、高家と大名に振り回されながらもイベントを成功に導こうと色々と走り回るのですが、どうも歯車がうまく回らず、イベント当日に事件が起きてしまうという、なんというかサラリーマン悲哀話に落とし込んでいるのが面白いですね。
俸禄は低くとも、畠山とか吉良といった足利一門の面々が、江戸時代も朝廷との間を取り持つポジションでうまく生き残っている様子が描かれていて、なんとも微笑ましいのです。
でも、この頃になると、もともと半公家みたいな足利一門も武力で成り上がった戦国大名も、何代かの世襲を経て、皆平和ボケしていて、一応建前はあるものの、俸禄の数字と官位くらいでしか身分の差を測れない、というのはなんというか太平の世ならではの閉塞感がありますね。
もちろんフィクションですが、登場人物の誰も悪者ではありません。
それでも少しずつのボタンの掛け違いでこういうバッドエンドになることってありますよね、という小並感とともに、さっと読み切ることができました。