森博嗣『アンチ整理術』読了。
タイトル通り、整理術の本のようで、整理術の本ではありません。
でも一応分類としてはハック系の本になるのでしょうか。
本文中にもある通り、森先生がとある編集者から整理術・仕事術の本での執筆を打診され、受けた結果出来上がった本ですね。
受けた際の編集者とのメールのやりとりまで再現されています。
それを読むことで、そうか、そういう経緯でこういう本になったわけか、と納得するわけですが、逆に言うとその経緯も含めて理解しないと、対象となる読者も、その目的もわからず、読んでいて難破しそうになります。
考えてみたら森先生は、工学部の教官で作家でもある、なんていうスーパーな人なわけです。
そもそも一般的なサラリーマンをしたことがない、と言っているわけで、なぜそんな人にこんなテーマでの本を提案したのか、とも思うのですが、まあ、どうやら編集者が森先生のファンなのですね。
なおかつ、文面から察するに、かなり若い女性。
編集者の仕事にも行き詰まっている感があり、自分自身のキャリア相談みたいなことを、憧れの作家である森先生に持ちかけてみた、みたいなのが本書が生まれた本筋かもしれません。
読者としては、それにお付き合いさせられたということになりますが。
彼女の人生相談に乗りながら、彼女の問題点に気づく森先生。
これまでの人生で、あまり考えるということをしてこなかったのではないか、と。
「計算はするから、数字と式を教えてほしい」と言っているようなものだ、という表現が秀逸です。
別に彼女の思考・行動を、「計算もせずに、答えを知りたがっている」とまでは言わないのが味噌ですね。
何もしないで結果がほしい、とまで贅沢なことは言っていないのです。
「仕事術」的なものの裏側にあるものは、仕事は仕事としてちゃんとやるつもりなのでそれを効率よくやるやり方を教えてください、というニーズですね。
でも、そんなものあるわけないだろ、とバッサリ切る森先生。
一読者として読んでいる当方も、イタいところを突かれているなあ、と思わざるを得ません。
確かに、ひとえに仕事と言ったって、作家の仕事と、例えば経理の仕事とでは違うわけです。
それらに共通する「仕事術」「整理術」みたいなものを考えても仕方ないのではないか。
だから、その都度自分に必要なものを考えてごらん、というのが本書での先生の言いたいこと。
ちなみに、先生自身の整理術については、本書の帯がすべてを物語っています。
「散らかっていても、作業が進めば、それが正解だろう」だそうです。
はい。整理術としては参考になりません・・・。
それを帯で知らしめてくれている、という意味では親切な本です。