藤沢数希『コスパで考える学歴攻略法』読了。
ちょいちょい上から目線の文章は散見されますが、それも含めて著者の文体だと理解すれば良いです。
著者のプロフィールには「外資系投資銀行でクオンツ、トレーダーを経て、現在は香港にて資産運用業を営む」とありますが、確か国際証券からABNアムロのバックオフィスという経歴だったので、完全な嘘ではないにせよ少し盛る癖はある人なのでしょう。
昔、ご自身のブログでも記事によって「投資銀行業務をしていた」「ファンドマネージャーだった」「プロップトレーダーだった」とブレていて違和感を持ったこともありましたが、さすがにそれらすべてのキャリアを持つ人もいないでしょうし、実際そういうツッコミもあったのでしょう。
本書では、あり得なくは無さそうな無難な?「経歴」に落ち着いています。
無論、それらがフィクションだろうから本書が面白くないかというとそんなことはありません。
ご自身の身内が受験を経験した際、その面倒を見ようと日本の教育産業界隈を研究した成果が本書ということですね。
なので、実を言うと著者自身の「経歴」は内容と関係ありません。
それらについての語りは、あくまでも話を面白くするためのもの。
方便としての上から目線です。
本書のタイトルは「コスパ」を強調しているし「攻略法」とあるので、どうも短期的な損得を計算していると思いきや、実はかなり長い時間軸での収支を考えているものでした。
それでも最終章にあるように、日本で生きていく上での最適解が医学部受験に落ち着きそうなのは、衰退途上国家ジャパンの悲しい現実ではあります。
否定もできませんが。
医学部を再受験する研究者や会社員はいるが、学問を極めたいと東大に入り直す医師はいない、という著者の意見には頷かされます。
本の前半で、医学部を除いた出身大学別の卒業後の年収のランキングなどを出しているので、その時点では「うーん、やはり入試の偏差値と相関はあるな~」なんて思っていると、最後にどんでん返しを食らう感じです。
優秀な頭脳が医学部にばかり流れる現状をマクロでは憂えるものの、ミクロでの人生の「攻略法」としてはそうなるのは致し方ないのではないか、という著者の意見には反論の余地もありません。
自分も以前ツイッターで、理三を出た医者のアカウントが高血圧の危険性について説いているのを見たときには、「最高頭脳にそんなことをさせてしまうのは…」、とは思いましたが、少なくとも食いっぱぐれはない、というかある程度の収入を期待できる進路を考えたら、個人の人生の「攻略法」として医学部進学になってしまうのは仕方ないですね。
国公立なら親の負担も少ないし、貧困家庭には自治医大とか防衛医大とかいう手もあります。
予備校で知り合った母子家庭だった友人も、防衛医大に進みました。
合格したら自宅まで自衛隊幹部の人が挨拶に来たとか。
国立の発表前に彼を囲いたいということのようでした。
自分も高専を辞めて改めて進路を考えたときに、親に資金面から医学部は難渋されたので防衛医大もありかと考えたのですが、親から更に「それだけは止めてくれ」と懇願され断念した記憶があります。
まあ、親は赤かったですからね。
息子が自衛隊、というのは許せないものがあったのでしょう。
今とは比べ物にならないくらいに自衛隊アレルギーがあった時代の話です。
まあ、そんなに医学への道にこだわりもなかったし、というかむしろ化学・生物は苦手だったので、そんなに深く考えることもなく普通に理二に進んだのでした。(理三に進むほどの学力はなかった。)
その後、医学部受験専門の予備校で講師のバイトをすることになったのですが、開業医の息子だというだけで何年も浪人をさせられているものの、どう考えても医学部どころかどんな大学にもひっかかりそうもない成績を取り続ける生徒などを見ると、医学部進学を義務付けられる人生というのも、それはそれで辛いものだと感じました。
そうかと思えば、寄付金を積んで帝○大学に押し込まれた生徒が、後年テレビをつけたら医者として偉そうなことを語っていて、お前には診てもらいたくないけどなぁ、なんて思うこともあったり。
本書では、医学部進学以外の「別解」も記しています。
研究職に進むなら学部までは日本国内で学び、それ以降は海外で給与の給付も受けながら研究するという道、そうでなくとも、日本は学部卒であってもいいところに就職できるので学部卒から外資企業に進むという道など、日本の教育そのものについて「コスパ」面からは優れていることを示唆されているのが特徴的ですね。
そして、日本の大学に進むにしても、必ずしも中学受験の「コスパ」は高くないことが指摘されています。
親としての自分ごととして本書を活かすなら、うちは中学受験は考えていないので、まずは英語と数学を個人教授するところから始めてみようかな、と。
というわけで、まずは英語のアプリ(Duolingo)を子どもにも勧めてみたのでした。