ジョージ・フリードマン『100年予測』

ジョージ・フリードマン『100年予測』 評論

ジョージ・フリードマン100年予測』読了。

名前だけは知っていたジョージ・フリードマン。
これまであまり読む気になれなかったのは、この本のタイトルそのもの。
100年予測」なんて信じられないじゃないですか。
そこまで未来のことを言ってしまうのは、地政学の王道からも外れているような気がして、少し敬遠をしておりました。
少なくとも読むリストの優先順位は低かったわけです。
けれども、今回の露宇紛争を受け、ツイッターで彼の主張を取り上げている方がいて興味深く思い、その優先順位を繰り上げて読んでみようかという気になりました。
どんなところが気になったのかと言えば、本書で言えば以下の箇所に集約されます。

「ロシアは1917年に崩壊し、1991年に再び崩壊した。そしてこの国の軍隊は、2020年を少し過ぎた頃に、いまひとたび崩壊するのである。」

なんということでしょう。
本書は2009年の本で、今回のウクライナ侵攻も無ければクリミア侵攻すら起きていなかった時期の予測です。
そこで、これは読んで見る価値はありそうだ、となったわけです。

で、読んでみたのですが、無論、書かれた当時から13年も経った今では、本書の予測内容も、少しずつ現実とずれ始めているところもありますが、むしろ大枠ではあまり外していないところが驚かされます。

何しろ、ウクライナもベラルーシもすぐにロシアの勢力下に置かれるようになるだろうが、その外側、ポーランドやチェコ、ハンガリー、ルーマニアといったあたりの国々との対立からロシアは自壊する、というのが本書の筋書き。
著者としても、まさかウクライナで躓くとは思わなんだ、というところはあるかもしれませんが、それでもロシアが崩壊へ向かうという道筋は外していないのです。

著者も述べていますが、どこの国の話であっても、個別の大統領の性格がどうとか、突出したカリスマ政治家が無茶をしてどう、とかいった分析はありません。
ある国とある国がここで接しているがゆえにこうならざるをえない式の積み上げです。

個別の政治家について語っていないのと同様、(というか100年先の政治家の性格など分析対象になりえませんが、)国民性といった曖昧な概念も極力避けている節がありますね。
あるとすれば、統合度という一つのパラメーターだけのような。
日本が分析の前面に出る一方、人口で言えばむしろ日本よりも大きな要素になってきそうなチャイナ・インドネシアといった国々が出てこないのは、国民の統合度合いの高低があります。
常に分裂する懸念を孕んだ国は、外へは向かえない、ということですね。
なので、国と国との争いを含む地政学の舞台には登場しづらい。

本書でも驚くほどチャイナが表舞台に出てきません。
その部分を以て彼の分析は大きく的はずれだ、という声もあるようですが、これもそういう背景があってのことです。
現在のチャイナが中華民国の後継であるとすることには議論の余地はありますが、たとえそうだとしても、孫文が五族協和(漢・満洲・蒙古・チベット・ウイグル)と言っていたくらいには多民族の集まりであったことを鑑みても、なかなかに統合度が高いとは言えないですからね。

本書ではそんなチャイナについて2010年代に分裂すると予測しています。
ただし、その経緯などには深く触れていません。
上述のようにロシアの2020年代初頭の崩壊については、ある程度紙幅を割いている一方、このチャイナについての淡白さは気になります。
どちらも国民の統合度合いが低いことを上げつつ、ロシアは外に出て自壊する、という説明はありますが、チャイナは分裂する、とだけ。
我々日本人からすると、どういう過程で分裂するのかは結構気になるじゃないですか・・・。
台湾侵攻失敗からの?
尖閣奪取からの?
チベット・ウイグルの反乱からの?などなど。
経緯によっては日本は大いに巻き込まれますからね。
なのでこの東アジアの解説の淡白さは、著者がアメリカ人だからなのかもしれませんが、そこがちょっと不満ですね。

とはいえ、日本人としてもっと気になるのは、2050年に日本・トルコ・ポーランドがアメリカと戦争する、という予測です。
これは、日本すごい論者も日本悲観論者も首を傾げるでしょう。
日米安保はどうなった?と。
ただ、本書で何度も著者が言うのは、20年もあれば世界の常識はまるで変わってしまう、ということです。
我々日本人も歴史の教科書で、日英同盟を習った数ページ後には鬼畜米英相手に戦争を始めていることを知っています。
なので、日米の蜜月だって、10年後、20年後にどうなっているかなんてわからない、と言われればそうなのですが、なんとも気持ちは悪い。

また、ここの分析でもチャイナの存在がまるで無視されていますが、これは上述の通り、2010年代にチャイナが分裂し、2020年代にロシアが崩壊したという前提があるからです。
日本・トルコ・ポーランド、この3カ国とも、ロシアの外側にありますね。
で、ロシア崩壊時にこれらの国々がこの地域に進出して勢力を伸ばすだろうことが予測されています。
その上での対米戦というわけですね。

日本に関してはロシアだけでなくチャイナの沿岸部にも進出していることが書かれていますが、これも、その前提としてチャイナが分解・分裂しているからですね。
上述の通り、それらは2010年代の出来事として予測されているので、このあたりが現状では現実とずれています。
これを外れたと見るのか、後ずれしているだけと考えるのか、まあ、それは後になってみないとわからないわけですが。
それにしても、それは単に工場を建てまくる式の進出なのか、また満洲国を建設する、みたいな話なのかによってもだいぶ話は違うでしょうし、後者のパティーンでアメリカと衝突して、みたいなのものだとしたら、まんま80年前の踏襲ですね。

続編も読んで、著者の修正・転向も確認したいです。

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