内藤陽介『誰もが知りたいQアノンの正体』

内藤陽介『誰もが知りたいQアノンの正体』 評論

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内藤陽介誰もが知りたいQアノンの正体』読了。

本書はタイトルのとおり「Qアノン」現象についての解説本ということになります。
数時間もあれば読み終えてしまえる内容で、中身が薄いと言えば薄いです。
ただそれは、著者の責任というよりは、「Qアノン」自体の薄さだと思えば、納得がいくのではないでしょうか。
薄いものを分析しても薄い結果しか出てこないのは仕方ありません。

副題は「みんな大好き陰謀論Ⅱ」ということで、前著とセットで読んでください、とありますが、前著を書いた段では、セットでの執筆を考えていたわけではないのでしょう。
アメリカの大統領選を巡るあれこれを受けて、出版・編集の方が内藤先生に日本での反応も踏まえてまとめてほしいといった要望を出した結果の本だろうと思います。

日本の本なので、例えばドミニオンに対応してのムサシであったり、アメリカの事象を説明するのにも日本には同じようにこういう陰謀論がありますよね、という説明があるのですんなり入れます。
というより、そもそものルーツは日本の「2ちゃんねる」なのですね。
そういう意味では日本のほうが陰謀論的には進んでいた、という言い方もできなくもないですけれども。

月刊ムー』の編集長がQアノン特集で、日本にはあんな杜撰な陰謀論に引っかかる奴はいない、もっと日本の陰謀論は高度だ、と言っていたそうですが、案外そういったところはあるのかもしれません。

それでも自分らが中学生の頃に流行ったノストラダムスの本とかは、中二病目線でも流石にちょっとこれはないだろう、というものが散見されましたけどね。
予言書(とされる書物)のある一節について、これは目白の田中邸を訪れた竹下登が屋敷に入れなかった事件のことを指している、とか、ヒトラーも山本五十六も生きていて南極に秘密基地がある、とかいう内容に、「いやー、ないないw」とツッコミを入れながら、我々は大人になったわけです。
大の大人が大真面目にそんなことを主張するなんてこともあるのだ、ということを知っているだけでも違いますよね。
そうした前提があって、我々の世代は、他の世代に比べてもいくらかそういう方面の免疫ができているのかもしれません。

確かに今回の一連の騒動でも、意図的に誤情報を出している方は別として、日本では結構年配のジャーナリストが振り回されていたように見受けられます。
いわゆる保守おじさん的な面々ですね。

2020年という年は、何もかもが異常で、そのなかにあってアメリカの大統領選でもいろいろなことがありました。
全体の異常さのなかにかき消されてしまいそうなものも数多くありましたが、やはりこういう本の形で振り返っておくのは有意義なことですね。

ケネディは実は生きていて、とか、メキシコとの国境線に人民解放軍が展開した、とか、フランクフルトで銃撃戦、とか、普段であればほぼ意識下で却下している情報について、そのいくつかについて改めてあり得ないこととして解説してもらえるのはありがたいことです。
なかでも、トランプ政権の4年間では親イスラエルの政策を取っていたと思われるのに、選挙戦においては、トランプが反ユダヤ主義者的な位置づけになっていたあたりは疑問だったのですが、本書の解説で腑に落ちました。
選挙活動の常として、右寄りの団体からの票も取りたかったがゆえに、その手の活動家からの賛美にも嫌悪感を示さなかったこと、またそれをリベラル側が殊更に取り上げ「差別主義者トランプ」として描き出そうとした背景があるのですね。
そもそもトランプ自身は娘婿はクシュナーだし、反ユダヤなわけないのですが、どちらの陣営も票集めに使える材料はすべて使った、と。
そのあたりの一見冷徹な解説が、もしかしたら本書が「ディープステート=ユダヤ金融資本」対「救世主トランプ」的な図式での分析を期待する「Jアノン」な方々から総スカンを食らっている一因かもしれません。

また、日本語で「不正」選挙という訳になっていますが、これはincorrectの「不正」であって、悪事という意味での不正ではない、という指摘にはハッとさせられました。
そこを取り違えて「不正選挙」と騒いでいるのは、結構恥ずかしいことではあります。
不手際と陰謀とは、やはり次元が違います。

昔、トンデモ本で、サタンとサターンをごっちゃにして、セガサターンは悪魔の象徴、みたいな主張を見たことがありましたが、それに近いものがありますね。

それでも本書のアマゾンレビューには星1つが7%もあります。
ダークサイドに落ちてしまった人にはもう届かない、ということなのでしょう。
右にも左にも、暗黒面はあるのですね。

内藤陽介本

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