三好長慶 松永久秀

三好長慶 松永久秀 評論

天野忠幸『室町幕府分裂と畿内近国の胎動』を読む。

全編通して、著者の三好長慶松永久秀への愛が感じられる著。

信長が評価されるならなぜ三好長慶が同じように評価されないのか。
こんなにうまく畿内の政治を取りまとめたのに。
そんな思いの丈が詰まっている。

著者もあとがきに書いているが、応仁の乱以降、信長が上洛するまでの間というのは、教科書ではまったく習わない。
なので、こちらもほとんど事前知識は無い。
でも読み始めて割と早い段階で、そもそも室町幕府というものの位置づけについて、徳川幕府みたいなものがその時代にあった、という図式で考えると見誤るのだろうことは、わかった。
江戸時代同様、地方自治は各藩に任されているとはいえ、武家政権のトップには足利があり、それは幕末まで揺るがないもの、という見方を持ってしまっていたとしても、じゃあ鎌倉公方とはなにか、関東管領とはなにか、三管四職とはなにか、とかいう疑問を突き詰めて少し想像力を働かせれば、教科書の知識からでも何となく江戸時代とは違っていそうだ、ということはわかりそうなものだが、まあ、お勉強として学んでいた時代には、そこまで頭は回らなかったな、と。

最近の大河ドラマは見ていないのであまり語れないが、歴史ものという括りで言っても、松永久秀は最後に自爆死!、というくらいの知識しかなかった私でも、三好政権のざっくりとした流れは追えたので、この時代の知識の空白を埋めたい向きにはお勧めの一冊。

それにしても応仁の乱以降の畿内は本当にカオス。
価値観が違いすぎてついていけないところもある。

細川政元:入浴中に、澄之派の香西元長や竹田孫七らによって京都で暗殺された。

お風呂くらいゆっくり入りたいですよねぇ。

柳本賢治:東条谷で山伏に暗殺される

当時の山伏ってゴルゴ的なやつですか?

遊佐長教:何者かによって暗殺される(背後に義輝がいた可能性が高い)

どうせ義輝の指し金だからと実行犯は特定しない風潮

大内船は、細川船だけでなく、寧波の市街地も焼き払って略奪を繰り返して、紹興城(中国浙江省)を攻撃し、明の官人を拉致してしまう。

ちょっとー。
戦国の感覚で貿易先の他国を荒らしてこないでくださいよー。

永禄八年五月、三好義継と松永久通は1万の兵を率いて将軍義輝に出仕すると、それぞれ偏諱を受け、(中略)義輝は三好氏を四職家待遇とし、松永氏を輝字の偏諱を与えた伊達氏・上杉氏・毛利氏より厚遇することで、(中略)後期義輝幕府を支えてくれるよう期待した。
 ところが同月十九日、義継と久通は、将軍義輝(中略)ら三十名余を討ったのである。

名前貰って一ヶ月経ってないじゃないですかー。
しかも不意打ちではなく白昼堂々と斬り込むってどうなってるんですかー。

などなど。
また、同じ姓を持つ一族同士が争うし、同盟相手もすぐに変わるので、非常にややこしい。
この本では、例えば畠山氏を政長流・義就流と頭につけてくれているので、まだすっきりしているが、このややこしさは歴史そのもののややこしさなので、受け入れないといけません。

では、この同族同士が争う原因はどこにあるのか。
レビューでもそこがわからない、という書き込みがあった。
もちろん、著者は淡々と事実と直近の背景を記述しているだけでそこまでは踏み込まないのだが、素人の強みでブログ主の思うところを述べてしまうと、根本的な原因は、室町幕府の成立の経緯自体にあるのではなかろうか。

鎌倉幕府が建武の新政で倒れた後、公家の統治に不満を持つ武家を統べる形で尊氏が幕府を開く。
持明院統を担ぎ出しての開府だったので、言わずとしれた南北朝の対立が発生する。
で、南朝方に京都を盗られてはいけないので幕府は京都に置かざるを得ない状況。
でも、東国は東国で旧鎌倉幕府の残党に目を光らせないといけないので京の将軍とほぼ同格の鎌倉公方とやらも置くことに。
ここに室町と鎌倉という対立も埋め込まれる。

始まりの時点でのこの対立軸が、ずーっと後まで尾を引いているような。
また、管領家などの力を削ぐために、将軍家がわざわざ各家の家督相続に口を出し争わせるようなやり方は、義満や義教といった天才が差配しているうちは良かったが(と言いつつ義教は最後に暗殺されてますが・・・)、義政あたりになると、それによって将軍家そのものの屋台骨が崩れるみたいな状況になって目も当てられなくなっている。
そして義輝の行きあたりばったりの所領安堵や役職の任命は、地方の大名が呆れて無視をしだすレベル。

本書では義輝の無能ぶりが淡々と書かれているものの、将軍家が圧倒的な軍事力を持っているわけではない状況が、こういった口先介入でやり繰りする統治手法を生み出していたわけで、そこは義輝だけの問題とするのはかわいそうな気も。

この本によると、三好長慶はそういったやり方ではなく、各家をまとめる方向で政権を安定させていったそうだ。

長慶は舎利寺の戦いで同盟していた義就流の畠山在氏と結ぶのではなく、長教の弟の杉坊明算を討ち、宗房を支持することで、政長流畠山氏の統一に尽力した。

これなど軍事力を背景にして初めて出来る話だろう。

また、三好長慶は、足利将軍家の人間をまったく擁立しないで首都京都を支配した初めての大名、ということだが、義輝と対立はしても、義輝と対峙する新将軍を担いで争いを激化させることは望んでいなかった、ということなのだろう。

長慶は足利義輝との戦いにおいて、かつて父元長と共に自害しようとした足利義維が阿波にいるにも関わらず、これを擁していない。義維自身は強く畿内へ復帰しようとする意志があり、天文十六年には実際に渡海したにも関わらず、虚しく帰国している。

朝廷から将軍職ではないものの、義輝と同等以上の扱いを受けるに至った長慶には、新たに足利の名を持つ将軍を擁立する必要もなかった、という見方も当然できる。
しかし、義澄系列か義稙系列か、高国系列か澄元系列か、みたいな争いはもう止めません?みたいなノリが感じられる。

もしかしたら、そういう長慶の先見性を読ませるのが本書での著者での裏の狙いだったりして。

となると、そういうテーマで近い将来大河ドラマ化しそうな予感。

「三好長慶、信長より早かった天下人」
みたいな。
イマイチか?

ちなみに著者の天野忠幸氏。
1976年神戸生まれ、だそうだ。
早生まれでなければ、センター試験の翌日にあの阪神大震災に遭遇した世代。
二次の試験に向けては、場合によっては受験先の再検討とか色々な困難があったものと思う。
それでも経歴からすると少なくとも関西を離れる選択はしておらず、そういう生き方があってのこの研究テーマ。
いよいよ、長慶が主人公の大河で監修してほしい。
そうしたらさすがにブログ主も大河を見るようになると思う。

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